黒河探偵事務所

□メイドの悲劇【後編】
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 車のキーを差し込み、エンジンを掛ける黒河。
 一方、由那は地図を片手に助手席へ座っている。


 黒河は何かを考えているのか、無言のまま運転している。
 由那は黙って俯いていた。





 沈黙が続く。




 しかし、黒河がそれを破った。



「由那さん、次を右……だよね」

「あ、はいっ」



 地図を開いて道を確認する由那。



「次は、あの信号を左です」

「わかった」



 道を指示したあと、なにやら由那が小声で話し始めた。



「あの時」

「ん?」

「あの時も……車で移動していれば良かったですね」

「……ああ」

「あの時、『近道が細い道だから車より徒歩がいい』なんて言わなければ良かった……」

「そんなことないと思うけどなぁ」

「車で行ってれば……アイツに追いついてたかもしれないのに……」

「……」



 また、沈黙が始まった


 2人が黙ってしまうのも無理はない。
 さっきまで隣で笑っていた玲が、かなり危険な状況に晒されているのだ。


 しかも牧田は、いくら人通りが少ない裏路地だからといっても、通行人に目撃されるかもしれない。

 そんな場所で平気で人浚いをするような人間だ。


 なにをするかわからない。


 考えれば考える程、2人の思考は暗くなっていくばかりであった。



「さん……黒河さん!」

「……えっ、なに?」
「は、早いです」



 スピードメーターに目をやると、確かにスピード違反を少し超えた速度で走っていた。

 考えすぎていて気付かなかったようだ。



「ぅおっと……」

「気持ちはわかります……でも」

「……」

「落ち着いて……ね。玲さんを救えるのは……黒河さん、アナタだけですから」

「……ええ」








「えーと、この道を右に曲がれば……っと」

「あ、アパート!」

「よし! とにかく降りてみよう」

「はい!」



 黒河はそう言って近くの道に車を停める。


 そしてアパートに近づいてみると、新事実が発覚した。


 1階の窓側には塀がある。

 そして……。




「……横……長っ」



 尋常じゃない。
 これなら2棟に分けるか、3階建てにしたほうがいいだろう……。

 そう思わせるほど、アパートは横に長かった。


 アパートの横が長いという事は、部屋数もかなり多いという事だ。

 こちとら緊急事態だというのに、いちいち各部屋を見ていくなんて事はできない。


 早く、早くしないと……。

 
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