黒河探偵事務所

□メイドの悲劇【後編】
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 電話の声の主は、なんと玲であった。



「ほ、本当に玲ちゃんなのか!?」

『はいっ! 今、牧田は部屋を出てるんで電話してるんですが……あの、クロさん……なんかスイマセン。心配しました?』

「当たり前だろう!? そうだ怪我! 玲ちゃん、牧田に殴られてたよね!?」

『知ってたんですか……はい、お腹がまだズキズキします……けど大丈夫ですっ』

「そうか……由那さん、玲ちゃん怪我は無いって」

「本当ですか!? よ、良かったぁ……」



 2人はホッと胸を撫で降ろす。
 だが、だからといってまだ安心はできない。



「そうだ! 玲ちゃん、いま何処にいるんだ!?」

『あ、あの……。ここに来るまでの記憶がハッキリしないんです……すいません』

「そうだよね……じゃあ、そこはアパートかい?」

『……そう、ですね。部屋の造り……ア……トっぽい……す』

「……ん? ごめん、なんか変な雑音で聞き取れなかった」

『え、ああ、テレビです。アニメ……しかも大音量ッ』



 玲のうんざりとした様子が電話越しでよくわかる。
 しかし、この地域は平日のお昼の時間にアニメは放映していないはずだ。



「平日の昼に? たしかアニメは……」

『えっと……多分、衛星放送かなーって』

「衛星放送?」

『ええ。CMとかが衛星っぽいんで……』

「そっか」



 この時、『衛星放送』というキーワードは頭の片隅にしか入らなかった。

 後々、これが重要なカギになるとは知らずに……。



「そろそろ本題に入ろう、玲ちゃん。 じゃあ、そこから見える景色とかを教えてくれないか?」

『はいっ! えーと……あ、あれ?』

「ん? どうしたの?」

『こ……ここ、私知ってます!!』

「な……っ! じゃあ教えて!」

『はい! えっと……っキャ……!!』

「れ、玲ちゃん……?」

『み……見つかっ……イヤ! やめッ……!!』






 プッ……プーッ……プーッ……。





 黒河のケータイから流れる機械音。


 見つかってしまった。

 最悪な状況だ。




「黒河……さん?」



 真っ青になっている黒河を心配そうに見つめる由那。



「由那さん。電話をしていた所を牧田に見つかりました」

「えっ……!?」

「わかってしまった牧田は、逆上して何をするかわからない」



 黒河と同様、由那も真っ青になってしまった。



「玲ちゃんは、極めて危険な状態です」

「そ……んな」



 由那は、ペタリと床に座り込んでしまった。



「行きましょう。……玲ちゃんの所へ」



 
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