黒河探偵事務所
□メイドの悲劇【後編】
5ページ/18ページ
「……もう、片っ端から見て行きましょうよ! 黒河さんッ!」
由那は、アパートを指差して言った。
しかし黒河は何かを考えているのか、俯いたまま動かない。
痺れを切らした由那が走って行こうとしたが、黒河がそれを止めた。
「なんですか?!」
「……ちょっと待って」
「えっ……」
「まだ、このアパートに玲ちゃんがいるとは限らない」
「えっ、でもさっき……」
「あれは……あくまで僕の推理に過ぎない」
「じゃあ……どうすればいいんですか……!?」
「何か、確信出来るような物がないと……」
黒河がクルリと辺りを見回し、歩き出そうとしたその時。
何かが足にぶつかり盛大にコケた。
黒河が地面に叩き付けられる鈍い音。
そして、黒河と衝突した何かが中身を派手にぶちまけ転がっていく音がリンクして、なんともけたたましい音がした。
「……っ、イタタ……」
「だ、大丈夫……ですか?」
「は……い……、慣れてますから……」
「な、慣れてる!?」
由那は、黒河が普段どんな生活を送っているのか気になったが、まず黒河の足元に転がっている物を片付けることにした。
黒河がコケる羽目になった元凶……それは、大きなゴミ箱であった。
「あの、気をつけてくださいね……これからも」
「……昔からなんですが……努力します」
「あら?」
「ん?」
黒河は、ゴミ箱がぶつかった方の足を抱えながら由那の持つ物を見た。
「それっ……玲ちゃんが入れられた麻袋じゃないか!!」
「えっ、やっぱり!?」
「ちょっと見せて!」
「はいっ」
由那から麻袋を渡された黒河は、すぐさま中を見た。
続いて由那も中を覗く。
すると、内側にはところどころに擦れたような赤い跡が付いていた。
「く、黒河さん、これ」
「口紅だな……」
「玲さんの!?」
「ああ、この色は多分玲ちゃんだ」
「じゃあ……っ、やっぱり玲さんはここに!?」
「ああ、これで確信がついた。あとは牧田の部屋だ!」