黒河探偵事務所

□メイドの悲劇【前編】
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 フラフラとした足取りで店を出る2人。
 特に黒河なんかは顔が真っ青だ。



「うー……ヤバ、吐く……」

「えっ!? ヤダ! やめてください!! は、吐くならそこのゴミ箱にしてくださいね!」



 玲はその言葉と同時に、裏路地のゴミ捨て場に置いてあるゴミ箱を指差した。



「酷いな……ああ、頭痛いー」

「ありゃ完璧にボッタですよね……」

「あふう……」



 メイドの恰好をした女性達の目に焼き付く笑顔や、店内に響く『萌え』の声。
 甘党の黒河も参ってしまうほどの甘い甘いカフェオレ。しかも、少量にしては目が飛び出る程の金額。


 "メイド喫茶"というものは、明らかに自分達に合わない空気なのはわかっていた。
 しかし、これほどとは。

 青白い顔をする黒河に、さすがの玲も心配した。



「ほ、本当に大丈夫ですか?」

「でもー……」

「え?」

「店内でずっと由那さんの事見てた男が居たよ……っプ」

「ええっ!?」

「昨日……ウチの事務所を睨んでた男と一緒だったし……っ……ゲ」

「す、すご……。私、全然気付きませんでしたよ……」

「んー……でもまだ完全にシッポ掴んだ訳じゃないからね……っ……」


「クロさん……大丈夫?」

「ヤ、バ……っプ……ッ!!」

「ダメェエエ……!!」









「……ふう、ありがとう! 玲ちゃん!」

「クロさん、そのめちゃくちゃスッキリした顔……やめてくれません?」



 見れば黒河は玲に向かって親指を突きだし、100%スマイルを向けている。
 それを見た玲は額に青筋を浮かべながら黒河を睨んだ。



「うーん、まずはあの男の事を調べるか」

「……いつも思ってたんですが……」

「ん、何だい?」

「そういう情報ってどうやって調べてるんですか?」



 明らかにギクリとした空気を漂わせ、冷や汗を大量に流している黒河。



「え……っと、ヒミツ」

「あ。そーですか……ハイ」



 
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