黒河探偵事務所

□メイドの悲劇【前編】
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 ――翌日。




 もうすぐお昼の時間。
 そんななか、人通りの少ない路地に玲の声が響いた。



「――クロさん、ありましたよ!」

「んああ、ちょっと待ってー。イタタ……」



 首をコキコキ回しながら早足で歩く黒河。
 どうやら首を寝違えてしまったらしい。



「もーっ! ソファなんかで寝るから寝違えるんです。ほら、行きますよ!」

「……がッ! 痛っ!! 引っ張らないでくれ!」

「自業自得です!」

「れ、玲ちゃん……冷たいよ……」








 ドアを開けると、ベルの軽い音と共に、お決まりの台詞が耳に飛び込んだ。



「「お帰りなさいませご主人様」」

「えっ」

「わぁっ、本当に言うんだその台詞……」


 店に入るなり、いきなり言われた「ご主人様」という台詞に動揺が隠せない黒河。
 テレビで観るのと同じだと変に感心している玲。



「コーヒー高っ!!」


 どっちにしろ、初めて来た2人には驚きがいっぱいだ。


「ヤバいです! クロさん、コーヒーがっ……」

「シッ……黙って」

「……あ、由那さんだ……」



 なにやら男性客とジャンケンのような事をしている由那。
 そこには、昨日の泣き崩れている様子とは全く別人の顔があった。


「萌えー萌えっ」


 由那は何やら笑顔で飛び跳ねている。


「おっ……」

「クロさん、昨日言ってた事って……」

「こういう事か……」


 そこに、メイドが出てきた。どうやらなかなか注文しない黒河達に注文を取りに来たようだ。



「ご主人様っ、ご注文はお決まりですぁ?」

「えっ」

「あっ!? ……じ、じゃあこれっ」


 玲はメニューを指差してメイドに見せ、それを確認したメイドが笑顔で答えた。


「『みるく』ですねっ お連れ様は何にしますかぁ?」

「あっ、『かふぇおれ』……で」

「かしこまりましたっ 少々お待ちくださぁい」



 メイドは去って行った。
 それと同時に玲が眉間に皺を寄せて黒河を睨む。



「クロさんっ! なんでよりによってコーヒーなんですか!?」

「なっ、何怒ってるんだい!?」

「一番安い『みるく』だけでも525円なのにっ……『かふぇおれ』なんて730円もするじゃないですかっ!」

「なにっ……! しまった!!」

「今月は赤字ですよ……」



 その後、がっくりうなだれている二人の前に、小さなカップに注がれた牛乳と、頭痛がするほど甘いカフェオレが出てきたとか……。


 
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