黒河探偵事務所
□メイドの悲劇【前編】
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「よし、早速明日から調査を始めましょう。ストーカーは早く駆除するに限る」
「クロさん、駆除って……虫?」
苦笑しながら玲が言った。
「だって……ストーカーなんて虫ケラ同然だろう?」
「そうですね……」
黒河はスクッと立ち上がり、大きな窓から外を見た。
「うん、ずっとコチラを見てる不審な男性発見」
「えっ」
ビクッと身体を揺らして青ざめる由那。それに気付いた玲が優しく肩に手を置いた。
「大丈夫、クロさんがなんとかしてくれるわ」
「は、はい……」
「まずはアナタの仕事場から調べていきましょう。申し訳ないですが、務め先の……その……メイド喫茶の地図を書いてください」
「あのっ」
「はい?」
「ビックリ……しないでくださいね」
「? わ、わかりました」
「書けました。ここです」
「ありがとうございます。じゃあ……玲ちゃん、タクシー呼んで」
「え、なんでですか?」
頭上にハテナマークを浮かべた玲が受話器を取りながら言った。
「当然だろう、たとえどんな距離でもタクシーなら安全だ。これで今日みたいに襲われるような事はないだろう」
「あ……そっか」
玲はそう言ってタクシー会社に電話を掛けた。
「あ、私……帰りの電車賃とちょっとしか持ってないです……家も遠いし……」
「大丈夫、こちらが出しますよ。1万円あったら十分でしょう」
「す、すいません!!」
「そのかわり」
「……え?」
黒河は真剣な顔もちで言った。
「お釣りは返してね」
「ぶっ……」
由那は吹き出し、それと同時に緊張も解けた。
「あははは……!」
「クロさん、ちゃっかりしてますね……」
「さすがに1万円まるごとは厳しいね」
ポリポリと頭をかきながら笑う黒河。
いつの間にか、事務所内の緊迫とした空気も明るく変わっていた。