黒河探偵事務所
□メイドの悲劇【前編】
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「う……っく……」
「どうぞ、ここへ掛けてください」
黒河は、泣いている女性をゆっくり椅子に勧めた。
「玲ちゃん、この方にレモンティーを。混乱している気持ちを沈めるにはレモンが効くんだ」
「はい」
「す……っ、すいませ……ん……」
「いえ、構いませんよ」
黒河はにっこりと微笑み、柔らかいタオルを差し出した。
タオルで顔を覆って肩を震わせている女性の前に、レモンティーとクッキーが置かれた。
「どうぞ」
「あっ……。ありがとうございます」
女性は、震える手で静かに紅茶を飲み始めた。
「落ち着いたら、お話聞かせてくださいね」
「あ……も、もう大丈夫です……」
「そうですか……? では、お名前を」
「藍沢由那っていいます」
デスクの上に置いてあるメモとペンを取り、メモをとり始める黒河。
「藍沢さんですね。差し支えが無かったらご職業を……」
「えっと……メイド喫茶でメイドをしてます」
「メッ、メイド!?」
黒河の隣でおぼんを持って立っていた玲が目を丸くして驚いた。