黒河探偵事務所

□memory【後編】《連載中》
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「あの、望月紗江さん……その妹の悠子さん。あの2人に昔なにがあったか……わかりますか?」

「望月……旧姓はたしか柳やね。…………2人に親はおらん。そう目立ったトラブルもなかったはずですわ。せやからたぶん……27年前の、事故、か」

「わ、わかるんですか!?」



 思わずカウンターに手をついて身を乗り出してしまった。
 しかし、今はそんな事気にはならない。


 事故……?




「せや。あの2人の両親が亡くなった、不幸な事故ですわ」

「……どんな、事故だったんですか……?」



 そう静かに問うと、矢野は目を閉じてひとつひとつ呟くように言う。
 小さい声だが、2人以外は人の存在しない店内。
 静かな空気には十分な大きさだった。



「確か……姉は4歳、妹は2歳の時。駅のホームで電車を待っとったんです」

「駅……」

「妹が泣き出してもうて、両親が目を離した時、姉の紗江はホームすれすれの際で遊んどったらしい」

「ま、まさか……落ちちゃった、とか……?」

「せや、両親が気付いた頃にはもう遅い。……姉は落ちた線路のド真ん中で泣いて動かんわ、電車はくるわ……もう、先、読めますやろう?」


お父さんとお母さんが……助けたんですね……」

「……両親2人、パニックになってもうてな。どっちか1人が姉の元へ向かえば、まだ、まだよかったもんの……2人で飛込んでしもたんや」

「……っ」

「姉は間一髪でホームへ上げられた……せやけど、そこへ電車が突っ込みよった」



 鍋に入った何かをかき混ぜながら、眉を寄せて語る矢野。

 事故で2人の両親が亡くなった。
 しかしそれは悲しい事実で。
現に昔、2人は孤児院で育ったのだ。
 だが、それがなぜ『紗江が償わなければならない罪』になるのかが、いまいち理解できなかった。




「罪……か」

「え?」

「クロちゃん、今『償わなければならない罪』の事、考えとりました?」

「な、なんで……?」

「わかんねや、大体は。それに、ワシに知らない事は無い。今、クロちゃんが調べてる事も……ですわ」


 
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