黒河探偵事務所

□セクハラ刑事にご用心
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「……っはァー、終わった!」

「お疲れさまです、クロさん」



 持っていたペンを勢いよくデスクへ投げ出し、背もたれに寄りかかる。

 今日の黒河は、先日まで扱っていた依頼を終わらせ、最後の書類整理をしていた。
 そして、それが今終わった所だ。



「お疲れですか?」

「あぁ、一気に終わらせたからね」



 椅子にのけぞり、だらしなく身を投げている。
 そんな姿を見ても玲が怒らないのは、仕方ないと思ったからだ。







第四章
 セクハラ刑事にご用心







 黒河はここ数日、少々ハードな生活をおくっていた。
 それは、この1週間に5つも依頼を受け持ったからだった。

 その5つのうち、3つ程がなかなか解決へ導けず、徹夜、寝ずの晩を過ごすのがほとんどであったのだ。



「……眠い」

「少し仮眠をとったらどうです? ここの所、頑張り過ぎですよ」

「いやぁ、やっぱり早く解決してあげたいじゃないか」

「……自分の身体も少しは敬いましょう」

「折角僕を頼ってきてるんだからさ……、それに答えてあげなくちゃ」



 本当に、お人好しなんだから。と思ったのは内緒で。
 それを言った所で『当たり前じゃないか』と言われるのは目に見えている。


「とにかく、少し寝てくださいよ」

「ああ、そうするよ」



 黒河は、少し背伸びをしたあとに、フラフラと仮眠室へ向かった。
 力無く閉まるドアを見つめ、ほうと息をつく玲。

 実は、この1週間で少し黒河を見直した。

 自分はロクに睡眠もとらずあんなに頑張っているのに、玲にはしっかり休ませていたのだ。



『クロさん、私やっぱり手伝います』

『いーから! 寝ておいでよっ』

『次はクロさんが寝るって、約束したじゃないですか!』

『僕は眠くないの! だから、休んで!』

『だって……!』

『じゃあさ、次、次は僕が休むからさ。寝ておいで』



 次、次は自分が休むと言って玲を休ませていた。
 書類を書いてるとき、うつらうつらと身体を揺らしていたのを玲は見た事がある。

 凄く、凄く眠いクセに、お客の前では笑顔で。


 だから、少し見直した。



 今頃熟睡しているであろう、黒河の居る仮眠室を見つめていると、事務所のドアが開いた。

 客だ。



「どーも、所長さんは居られますか?」



 今やっと黒河が睡眠にありつけたのに、客が来た。

 玲は、思わずクチに人差し指を当てて、静かにするよう呼びかけるような動作をしてしまった。


 
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