さあ、奪ってしまおう。



■■美しい獣





宣耀は、国試受験者が滞在する寄宿舎の一室にて、ぱらりと書物の貢をめくった。

白い指先は紙の上でも美しく映え、すがめた橙の瞳には夕暮れの蠱惑的な光がちらついている。

きぃ、と軋む木製の椅子を器用に傾けて、宣耀はちらりと机案に目をやった。

再び静かな沈黙が室を満たした後、きぃ、と椅子が軋む音が響いた。

宣耀は、今度はゆったりと味わうように、机案に伏せて寝入る室の主に目をやった。

透けるような薄蒼の髪に暖かな肌の色。呼吸と共に安らかに上下する肩とは正反対に、眉間に寄せられた皺が彼の性格を表している。

宣耀はことん、と椅子の脚を床に着けると、書物を机案の端に置いた。

そうして美しい衣擦れの音を立てながら、するりと絳攸の傍らに寝そべる。

寝入っている彼の頬に、緩く括った自分の髪が触れるか触れないかの距離で、宣耀は薄く笑う。

すー、と優しく上下する彼の体躯に、ふと宣耀は室の外から見たこの光景を想像する。

想像を絶する理知と頭脳を持つ絳攸と、天空の美にも近い外見に反して抜き身の刃のような才気を持つ宣耀の取り合わせは、実に麗しいものと言えた。

そうして宣耀の顔で、登華は妖しく笑った。

そのまま、まるで劇の一幕のように、登華は絳攸の唇をさらう。

ひたひたに満たされた花の蜜を啄む鳥のように登華は絳攸の唇を味わうと、するっと風のように自然に離れた。

そうして再び書物を手に取ると、薄く微笑みながら宣耀に戻る。


それが、あなたを奪った最初の出来事。






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