全てが消される前に
□2.目覚めたら見知らぬ土地
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起きてください、という声がした。しかし瞼を開こうにも身体は言うことをきかない。妙に身体がだるい。
起きてください、とまた呼ばれた。雪はうるささを感じつつ、やっとの思いで目を開けた。
「……ん」
「おはようございます」
「何?」
最初に目に映ったのは、見知らぬ女性だった。緩やかなウェーブのかかった金色の髪が胸元まで伸びている。
「よかった。大丈夫ですか?」
女性は安堵したように微笑むと、優しく雪に触れてきた。
雪は上半身を起こすと、顔をあちこちに動かした。上を見ると大量の葉が見え、後ろを見ると木の幹が目に入った。少し歩いて確認すると、それは大木だった。先ほどは気がつかなかったが、光一と健一も木を背に眠っていた。自分が立っている辺りまですっかりと陰に覆われた足下は草が生えている。その草が遠くまで続いているのを雪は呆然と眺めていた。
「ここどこ?」
「マルウェ草原です。この木、すごいですよね。始まりはいつもこの大木なんです。何百年間もここでこの草原を見守っている……この大木は色々なものを見ているんでしょうね」
「……いつの間に」
気がついたら女性が雪の横に立ち、大木を感慨深げに見つめていた。相手は二十歳前後だろうか、少なくとも雪よりは年上に見える。彼女は黒い花のような模様が裾の左下についたワンピースを着ていた。
「あなた誰? ここどこ?」
「あ、紹介が遅れました。私はシェルファです。ここはさっきも言いましたが、マルウェ草原……」
「草原の名前なんてどうでもいいわ。私、さっきまで教室にいたのよ! おかしいじゃない、こんな場所学校の側にもなかったわ」
「おかしくないですよ。だって……」
シェルファと名乗る女性はさも当たり前であるかのように話す。
「ここはあなたがいた世界とは別の世界ですから。あなたは召喚されたんですよ。いえ、あなただけではなく彼らも」