オリジナル長編

□ひだまり
3ページ/39ページ

数日後、啓子の提案で課メンバーによる潤一郎と由紀夫の歓迎会を行うことになった。
その幹事は、言いだしっぺの啓子と巻き込まれた小町。
皆が賛同するなか、課長だけが妻が急病で急いで帰らないといけないという事になり、残りの七人で行う事になった。
こういう時、こんな飲み会の幹事に慣れている啓子は、早速場所を予約した。
そこは、居酒屋というより、小さなレストランといったほうがいいくらいの洒落た店だった。
そして、テーブルを囲むように皆が座ったのだが、小町の隣には自然と潤一郎が座っていた。
「では、北条君、二階堂君、これからもよろしく!ってことで…乾杯!」
元気のいい啓子の音頭で、皆がグラスをかちゃりと鳴らし、宴会が始まった。
ただ、七人もいると、話の統制がとれなくなり。
「課長、来れなくて残念だったよね」
静が残念そうにそんな事を言うので、安達がフォローするかのように答えた。
「仕方ないさ、奥さんが病気じゃあね」
そんな話から盛り上がった静と三浦と安達、そして啓子と静と潤一郎と由紀夫といったグループで話すようになっていた。
ただ、小町は、啓子たちの会話の話には何となく入りづらそうにしていたのだが。
「そういえばさ、うちの課の女子三人って、”名物三人組”って言われているだろ?」
「…嫌だ、誰が言っているのよ?」
啓子が眉を潜めた。
確かに課長も言っていたが、本人達にしてみれば、そう言われるのは微妙な気持ちなのだ。
「仕事とかで知りあった他の課の連中も言っていたぜ?あの見た目も性格も対照的な三人は、本社の名物だって」
「失礼しちゃうわね。ねえ?小町?」
「…え?そ、そうね」
小町は気のないような返事をしてしまった。
「ちょっと小町、ノリが悪いわよ。どうしたの?」
そんな小町を心配して、啓子が尋ねた。
「…なんでもないの。大丈夫」
小町がそう言って手を出したとき、偶然にも潤一郎の手が小町に触れてしまった。
そして、その瞬間、小町はその手を払ってしまった。
「ご、ごめんなさい」
潤一郎を嫌悪するようなその態度を気にして、小町はすぐに謝った。
「別に大丈夫」
潤一郎は笑って答えてくれた。
だが、小町はあんな態度を取った自分に自己嫌悪してしまう。
…この人はアイツと違う…、だけど…。
…キモチワルイ。
「小町?大丈夫?」
顔色を悪くする小町を心配して、啓子が尋ねた。
「ん…、ちょっと飲みすぎた…かな」
心配かけないようにそう答えたが、その表情は青ざめている。逆効果だ。
「でも…そんなに飲んでいないでしょ?少し外の空気を吸ってきたほうがいいかも…」
「じゃあ、俺がついていってあげようか?」
潤一郎はそっと小町の肩に手を乗せた。
だが。
「障らないで!」
小町は思わず潤一郎の手を払いのけてしまったのだ。
「あ、ご、ごめんなさい」
自分のしてしまった事が恥ずかしくなって、小町は慌てて外に出て行ってしまった。
…どうしてあんな態度を取ってしまったのだろう。
小町は明日、会社に行くのが辛く感じたのだった。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ