オリジナル長編

□恋愛事情
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昼休み、美津子から電話があり、夕方仕事があがったら飲みに行こう、と誘われた。
七時にいつもの場所で。
そんな約束だったので、由比は六時五十分ごと店に行った。
店の中に入ると、目ざとく由比を見つけた人物が声をかけてきた。
「由比ちゃん、こっち」
それは美津子の彼である陣内で、手招きをして由比を呼んでいた。
「陣内さん、お久しぶりです」
由比が近づきながら挨拶すると、陣内はにっこりと微笑んだ。
陣内は美津子が短大時代からつきあっていて、今、証券会社で営業の仕事をしている。
美津子や由比よりも二つほど年上のはずなのだが、やや童顔なところがあって、下手をすると、美津子のほうが年上に見えてしまう。
「由比ちゃん、元気だった?」
「はい、陣内さんも相変わらず元気そうで…」
「ははは、体力的には、ね。精神的には、この不景気でちょっと参っている…かな」
そんな風に陣内がぼやいていると、タイミングよく美津子が店に入ってきた。
「…由比相手に何ぼやいているのよ?」
「別にいいじゃん?誰かに聞いてもらいたかったんだから」
ぶちぶちとそんな事を言い出す陣内に、美津子が呆れていると、由比はまあまあ、と二人の間に割って入った。
「全く相変わらずなんだから」
由比にとって、二人は気の置けない大切な友人だ。
最近は仕事が忙しくてなかなか会う事は少なかったが、こうやって三人で会うと、やはり楽しくて仕方がない。
だけど。
「由比は?まだ彼氏できないの?」
美津子にあまり聞かれたくないことを聞かれ、由比は少しだけ顔を曇らせた。
「…別にいいじゃない。私、恋人とか別に欲しくないし」
「…」
由比の言葉に少し重苦しい空気が流れる。
と、その時。
「お客様、ご注文はいかがですか?」
タイミング良く店員がオーダーを取りに来てくれた。
由比たちは適当に注文を頼むと、店員はすぐに厨房に向かった。
そして、それを確認すると、美津子は話を続けた。
「由比、二十代の女の子が”彼なんて欲しくない”なんて言うのは変だよ」
「…変でもなんでもいいでしょ?自分が幸せだからって、おすそわけよろしく勝手に押し付けるのはよして」
普段はあまりない由比の強い反論に、美津子は驚いて言葉を紡ごうとしたが、それは陣内に止められてしまった。
「まあまあ、二人ともやめなよ?美津子も感情的にならないで。由比ちゃんも、美津子は幸せだからそのおすそわけを押し付けようとしている訳じゃないんだ…。あのね…、一般論として…」
「だから、私のことはどうでもいいんです。それより、呼び出しだなんて、一体どうしたんですか?」
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