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□鯉のぼりの日
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「ねぇ、××」


「なに?」



飾っている途中、僕は××に問う。

すると××は夢中になって鯉のぼりを飾ろうとしていた手を一端止め、
何だろうと言わんばかりのきょとんとした目で僕の方を見た。





「何で今まで鯉のぼり飾らなかったの」




ただ不思議に思っただけなのだけれど何故か気になって××に聞いてしまった。


思い返すのは去年、××が4歳だった時。

その時は確か僕の仕事が今年ほど忙しくなくてちゃんと4月の終わりに飾ることが出来た。

だけど××は気が早くて4月の半ばから飾って飾ってと僕にせがんできたくらいだ。


なのに今年はしまう日に飾るだなんて…。

そんなにせがんだ××が何で今日に飾ろうなんて言い出したのだろう。

ただ単に今日しか飾れないことを知らないかもしくは忘れているだけだろうか。


いや、でもそれは違う気がする。
××も分かっているはずだ。

じゃあ何故だろう。


そう思っていると××が答え出した。




「だっておとうさんしごとでいそがしかったから」


「…え」



何だ、その答えは。

××は僕が忙しいのを分かっていたのか。


でもだからと言って別に僕と一緒じゃなくてもいいだろう。




「ぼく、おとうさんとこいのぼりつけたかったんだよ。

だってこいのぼりっておとこのこだけなんでしょ?」




…何か違う気がする。

確かに鯉のぼりの象徴となる5月5日は男の日、ひな祭りのある3月3日は女の日のように決まっているけれど別にそれは言い伝えだ。

飾ったりするのは誰でもいいのに、…でも





「おとうさん、またこいのぼりいっしょにつけてね」




笑顔で僕を見ながらそう言う××に嫌な気は全くしなかった。

むしろ、逆に―…





「…うん、来年はもっと早く飾ろうか」


「うん!」




嬉しい、だなんて。

そんな気持ちが僕の中に溢れていた。



そしてそれから数分後。

屋根より高く、風で泳いでいる数匹の鯉を見つめる××は満面の笑顔を浮かべていた。






(「おとうさん!おたんじょうびおめでとう!」)
(「…え」)

(「きょうのよるおとうさんのおいわいするっておかあさんいってたよ!」)
(「…××、それ僕には秘密にしろって**は言ってなかった?」)
(「…あっ!」)




end


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