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□雪の夜の月
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「おかえり、恭弥」


「………ただいま」




目を合わせることもないこの会話。
このやりとりさえ終われば恭弥は私の横を通り過ぎていく。


ああ、まただ、またこの香り。

女性特有の人工的な香り…おそらく香水。





「…………」




私は横を通っていった彼の後ろ姿を見送った。


会話なんて必要最低限、これが最近の恭弥との関係。




いつからだろう、こうなってしまったのは。


いつからか恭弥の帰りは遅くなっていた。

恭弥は仕事だと言ったのでそれ以上何も聞かなかったけど…。






どうして帰りが遅い時は必ずと言っていいくらい甘すぎるほどの香りがするの?




そんな香り、私は知らない。





だけど私は恭弥には一切聞かなかった。
いや、聞かなかったと言うよりは臆病な私は聞けなかったと言った方が正しいだろう。




だから私は草壁さんに聞いたんだ、恭弥の仕事のことを。





「恭さんの仕事ですか?いつも通り敵対マフィアを倒したり書類の作業をしたり…。
でもいきなりどうしたんですか?」


「あ、いえ…なんでもないです。ありがとうございます」





その時はその草壁さんの言葉で安心しきっていた自分。

今となってはどうしてその時そんなに安心しきれたのだろう。




確かに恭弥の言う通り仕事で帰りが遅いのかもしれない。




でも…“いつも通りの仕事”でこんなに帰りが遅いの?


香水の匂いなんてするの?





…いつからこんなに疑問深くなってしまったんだろう、私は。






でも、不安が消えないんだ。






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