一次創作BL・GL小説

□タイムスリップ
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俺は、今まで在った事を全て思い出した
本当に死んだのは、榎本千夏の方だ
それを受け入れたくなくて、自分を捨ててまで愁になったんだ
いつからか、俺の中で死んだのは本当の俺だと思い込んでた
でも、いつまでも逃げてちゃ前に進めないのは解っていた
それでも、千夏が死んだことを受け入れたくなかったんだ

「っ・・・っふ・・・」
「な・・・で、お前が泣くんだよ」
「だって、俺が愁をこんなに傷つけたのにっ・・・あなたは、俺を恨みもしないでっ」

床に涙の跡が、できる

「俺が、勝手に壊れただけだから気にするなよ」

千夏の頬に、手をかざすと「バカじゃねぇの」と言われてしまった
千夏が泣き止むまで、背中をさすってやる

「もう・・・いいですよ」

涙混じりの声で、そう言う
手を離すと、手を引き寄せられた
唇に触れるだけのキスをされてしまった
久しぶりのそれは、いつも以上に甘かった

「愁の好きなものって、なに?」
「なんで、そんなもん聞くんだよ。第一、こっちの俺と今の俺の好きなものなんて違うに決まってるだろ」
「そんなことないよ」

どこから、そんな自信がくるのか知りたいくらいだ

「タイムスリップってさ。今の自分と同じ波長の自分のいる所に飛べるんだよ」
「意味わかんねぇ」
「それは、また会った時に教えるよ」
「絶対だぞ」
「うん」

優しく微笑む千夏は、俺の知ってる千夏であって千夏じゃない

「俺も、前に進まなきゃな」
「がんばれよ」
「わかってるよ」

俺の体が、少しずつ光を放ちながら消えていく

「最後に、好きなものだけ教えて!」
「まだ、引っ張るのかよ」

少し考えてから、最高の笑顔で

「千夏だよ」
「えっ・・・」
「俺の好きなもの」

その時の千夏の顔なんて、見えなかったけど
最後に、キスをされたのは判った
一粒の涙を見せながら

「このエロ男め。・・・またな」

千夏の泣く声が、また聞こえた
何かを必死に言っているようだけど、もう俺には聞こえなかった

「――――――だよ。また、――――」

所々しか、聞けなかったけど何処か嬉しい気持ちになれた


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(きっと大丈夫だよ。また、巡り会えるから)
(俺は、お前の心の中に生き続けるよ)
(さようなら)
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