一次創作BL・GL小説

□タイムスリップ
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愁の部屋に入ると、愁の香りがした

「俺、なにか飲み物持ってきます」
「あっ・・・ごめんね」

精一杯の作り笑いをして、お礼を言う
ベットに寄りかかるように座ると、愁の香りが鼻腔に染み込んでくる

(愁の匂いがする・・・〉
「お茶、持ってきました」
「ありがとう」

薄れていく意識の中で、小さく返事をしたのを覚えている
それからは、寝てしまったのか後の記憶が全くない
目を覚ますと、まだ愁の部屋にいた

「あっ!目、覚めました?」
「あっ・・・ああ。悪いな、寝ちまって」
「いいんですよ。俺は、気にしませんよ」

知らない相手に、笑顔でいられる愁は相変わらずだ

「俺の顔に何かついてますか?」
「いや・・・俺に知り合いに似ててさ。懐かしいなぁって」
「そうなんですか」
「うん。お前みたいに、馬鹿正直なやつだったよ」
「だった?」
「5日前に、病気で死んだよ」

俺は、元いた世界の話をした
俺のいた世界での愁の話をしているうちに、こっちの世界の愁と馴染んでしまった
でも、話をひとつ終えるごとに愁の顔が険しくなていく

「千夏さんは、そっちにいた俺が好き・・・なんですか?」

突然、聞いてきたものだから俺は飲んでいたお茶を吹き出してしまいそうになる

「大丈夫ですか!?」
「あっ・・・ああ。大丈夫だ」

愁が、背中を優しくさすってくれた

「好きっていうよりは、家族みたいなものかな」
「その割には、俺のことよく見てますよね」

こいつは、痛いところを付いてくる
確かに、俺は愁のことは好きだ
付き合って・・・いたんだと思う

「どうなんですか?」

ここは、正直に言ったほうがよさそうだ

「俺たちは、一応付き合ってたんだ」
「えっ・・・」

愁の顔が、怖くて見れない
きっと、軽蔑しているのだろう

「うれしいです」

だが、その考えとは裏腹に愁は喜んでいた

「なんで?」
「だって、俺も千夏のこと好きですから」

お前が、そんなことを簡単に言うわけがないだろ
愁は、いつも照れくさそうに「関係ない」って言うんだ
お前は、俺の知ってる愁じゃない

「お前、誰だよ」
「・・・」
「愁は、そんなこと簡単に言ったりしない!」

俺は、思わず声を張り上げて否定してしまった

「あなたの方こそ、誰です?」

愁のいつもの優しい声とは違う
冷めた声で、目で俺を見下している

「おっ・・・おれは・・・」
(あれ?誰だっけ?)
「言えないんですか?」

その言葉に、反論できなくなっていた

「あなたは、榎本千夏じゃない」
「ちがう・・・」

少しずつ、愁の否定的な声が耳に響き始める

「あなたは・・・」
「ちがう・・・やめろっ・・・やめてくれっ」

俺の中にある何かが、少しずつ音を出して開き始める

「桜庭愁だ!」
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」

そこで、俺の意識は途切れた
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