夢見鳥(仮)

□傷跡
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あの日から、シルヴァはシュゼットの恐怖の対象となった。
普段は、なるべく顔を合わせないようにしていたが、夕食の時間だけは逃れられなかった。
毎晩、シルヴァは何もなかったかのように話しかけてくる。
この家のことや、町で見かけたという異国の踊り子の話。
また、好きなものから、孤児院での様子まで、さまざまなこと尋ねてきた。
シルヴァは穏やかで、丁寧な物腰。
ずいぶんと他人行儀ではあったが、穏やかな家庭ともいえるような光景。
シュゼットも、あの日のことがなければ、きっとこの会話を楽しんでいただろう。

しかし、シルヴァに声をかけられるたび、あの日のことが頭をよぎる。
反射的に身を固くする。声がかすかに震える。
そんな、怯える様子を見て、シルヴァは小さく笑うのだ。
本当に楽しそうに。

「動物が好きだったよね?」
前、そんなことを聞かれた気がする。
「はい」
「食事が終わったら。いや、時間が空いたらでもいいや。
 部屋に来て欲しいな。見せたいものがあるから」
「………………」
頭が真っ白になる。
「ね?」
シルヴァの笑みがいっそう深くなった。有無を言わせない。威圧感。
「………はい」
消え入りそうな声で返事をした。
恐怖に顔を引きつらせ、俯くシュゼットを横目に、
「待ってる」
と、食堂を去っていった。
その後、食事は一切のどを通らなかった。
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