月下の君
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「うっわぁ、デッケェ街!なぁ璃桜、起きろって!飯食えるぞ!」
「・・・んぁ?めし?」
一行が璃桜と出会った桜の木から、ジープで走ること約一時間。
予定通り荒野を抜けた先の街へ辿り着いた四人は、その賑やかさに表情を明るくする。
これほど人が集まっていれば物の行き来も多く、足りなくなった物の買い足しにも困らないだろう。
食欲旺盛な悟空によって空になった鞄の中身を思い、八戒はそっと安堵の溜息を漏らす。
そんなことには気付かず、悟空はようやく食事にありつける!と、四人の話し声にもこれまで目を覚ます気配さえ見せなかった璃桜の身体を、勢いよく揺さぶった。
ジープの揺れでさえその眠りを妨げることは出来なかったはずなのに、流石に頭が捥げそうな程の勢いで揺さぶられれば璃桜もゆっくりと瞼を持ち上げる。
暫くの間現状を確認するかのようにぼんやりとした目付きで周りを見渡していたが、ある一点に視線が差し掛かった途端、その瞳は一気に見開かれた。
そのまま立ち上がろうと足に力を込めるが、余程空腹なのかゆっくりと走行するジープの上でバランスを取ることさえままならない。
「――チッ!」
「おい、璃桜?どうしたんだよ、急に。ってお前、その顔・・・!」
「―――あ、悟浄!あれ!」
「あ?」
グラリと倒れかけた身体を急いで支えたが、その顔色は最初に見た時より僅かに青白い。
それを問い詰めようとした悟浄の言葉は、先程璃桜が向けた視線を辿っていた悟空の声に遮られた。
その指さす先にあったのは、誰かを囲むように立つ見るからに柄の悪そうな数人の男たち。
普通なら無視して通り過ぎてもよいのだが、男たちの足の隙間から見えるのがスラリと伸びた白い足であれば、悟浄が動かない訳がない。
「行くぞ、悟空!」
「分かってるって!」
「そうだ、ついでだから宿屋の場所も訪ねて来てくださいね!
・・・あぁ、璃桜は動かなくても大丈夫ですよ。ああいうのは二人に任せておけば十分ですから」
勢いよくジープを飛び出して行った二人の背を、八戒が思い出したかのようにのんびりと声を掛けながら見送った。
そのままジープが停車した所を見計らい璃桜も何とか腰を上げるが、袖を引いた八戒にやんわりと座ることを促される。
試しにちょっと腕を引っ張れば、更に爽やかさの増した笑顔の八戒がグイッと倍以上の力で引き返す。
暫く視線だけで押し問答を繰り返していたが、悟空に殴り飛ばされた男が地面に倒れ伏すのを見送れば、璃桜の方も渋々ながらもようやくドカリと腰を下ろした。
そのままぼんやりと視線を助けられた少女に向けていれば、いつの間にか彼女を囲んで四人の賑やかな声が飛び交っていた。
「あぁ・・・はらへった」
ぽつりと零れ落ちた言葉を残し、璃桜は勢いよくジープの座席に倒れこんだ。