花吹雪
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「こんな若い身空で、なんともまぁムカつく顔した少年もいたもんだ」
「はぁ?」
「何だよ、その反応は。金蝉が聞いたんだろう、なんで僕がこんな気軽に君と顔会わせられるんだって」
麗らかな昼下がりの午後。
そこかしこに花々の咲き誇るとある庭の一角で、卓を囲んでお茶を楽しむ一組の男女がいた。
渋いものを食べたかのような顔をして、深い溜息を吐き出した青年はあの観世音菩薩の甥、金蝉童子。
そしてその横で楽しげに焼き菓子を頬張るのは、彼の日と変わらぬ姿をした玉瑛その人であった。
自分の分の皿を空にしてなお物足りなさげな顔をする玉瑛の前に自分の皿を押しやりながら、気を取り直すため咳払いをした金蝉が改めて口を開く。
「だから、なんでそんなのが理由になるんだよ。大体、この屋敷だって普通は一般人立ち入り禁止なんだろう?
この間古い書類整理させられてた時にお前の名前見つけて、俺がどれだけ驚いたと思ってんだ」
「僕としては、金蝉が今まで僕のこと何っにも知らなかったってことの方が驚きだね。君一体何年生きてるのさ?
全く・・・観世音が頭抱えたくなる気持ちが分かったよ」
最初に非難の視線を向けたのは金蝉の方であったのに、玉瑛の口から言葉が紡がれるたび分が悪くなるのは彼の方であった。
痛い所を疲れて不機嫌に押し黙ったその姿を見て、今度は玉瑛の方が溜息を吐く。
「まぁいいや、今更言っても仕方ないことだしね。
折角疑問が持てるほど進歩したんだから、君の疑問にもちゃんと答えてあげるよ」
幼子を褒めるように偉い偉い、と繰り返すと自分の前に置かれた皿から焼き菓子を一つ金蝉の口に押し込んだ。
その扱いに対する不満を湛えた視線をさらりと受け流し、卓に頬杖を付いて楽しそうに微笑んだ。
「さっきも言ったけど、僕が最初に会った時の金蝉ってほんとムカつく顔してたんだよね。
でもなんかこの年の少年がここまで退屈し切った顔してるって考えたら、ムカつくの通り越していっそ清々しいって思えちゃって。
僕も丁度暇してたし、父さんに聞いたら観世音の親戚だから月一ぐらいならって許可ももらえたし。
じゃなかったらいくら金蝉でも、この屋敷に入ろうにも入口で止められてるよ。分かった?」
「それが毎月呑気に茶飲む理由とはとても思えんが」
「だって僕暇なんだもん。外出は天帝のとこの月初めの定例報告のためだけだし。だからさ、もっと外の話聞かせてよ」
急須からお代わりを注ぎながらそう強請る玉瑛に、これ以上の説明を求めるのは不可能だ。
短くない付き合いからそれを学んでいる金蝉は、渋い顔をしながらも自らも空になった湯呑を差し出した。
と、そこであることに気づく。
「おい、玉瑛。そういや今日、女官はどうした」