もう1つの世界

□悪夢におさらば*
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サトシが何の夢を見たのかはわからない。
けれど、あの時の表情からしてよほど恐ろしいものだったのだろう。
ゆえに、眠れないという彼の気持ちはよくわかる。

とは言っても眠らなければ翌朝にでも体調を崩してしまうかもしれない。


――俺に出来るのはこれくらいしかないけど……。

コップから漂う湯気を見つめながら思わず溜息を吐いた。



「ほら」
「…何、それ?」
「とりあえず、一回起きて。冷めないうちに」

再び寝室に戻り、よくわからないまま体を起こしたサトシにそっとカップを手渡した。

「これって……ホットミルク?」
「あぁ。熱いから気をつけろよ」
「わかってるよ」

クスクス笑いながらふーっと息を吹きかける。
ゆっくりとした動作でホットミルクを飲むサトシとそれを見守る自分。

暫くの間続く沈黙。
けれど、それは穏やかな空気。


「…ん。ごちそうさま」

空になったコップを返し、サトシは再び布団に潜り込んだ。

「あぁ。さ、もう寝た方がいいぞ」
「うん」

にこりと微笑んだサトシが何だかとても可愛らしくて……。
ぽん、と頭を撫でた。

「…タ…ケシ」
「ん?」
「あり…が…とな」


小さく、そう呟いて瞼を降ろした。
そのまま静かに寝息を立て始めて……もう、大丈夫だろう。


「……どういたしまして」


今日は本当に色々なことがあった。ありすぎだ。
サトシだけじゃない。
ヒカリも、誰もが疲労感で一杯だっただろう。


明日の朝には、また全員が笑顔でおはようを迎えられるように。

そう願いながらスタンドを消して目を閉じた。
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