もう1つの世界

□遠ざかる背
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ジョーイさんの治療のおかげでピカチュウの意識は無事戻った。
今はすっかり落ち着いたものの、体力の方はまだ回復しきっていない。
そのため別室で安静にさせているのだが……。


「何が?」
「何がって…ピカチュウのことよ。進化、させちゃうの?」
「さっきも言っただろ?あいつがそうするなら…オレは止めない」
「でも……」

ピカチュウが目を覚ました時、サトシはリュックの中から”かみなりの石”を取り出した。

ピカチュウがライチュウに進化できる石。
でも進化させたらもう元には戻せない石。


――まだ、持っていたんだな。


それは、もうかなり前に貰った物だった。
でもサトシはまだ持っていた。

あの時の一件で、俺はサトシがピカチュウを進化させることは無いのだろうと思っていた。
またピカチュウ自身も進化を望むことはしないのだろう、と。
だからこそ、サトシがそれを取り出した時は正直驚いた。


『昔、似たようなことがあったんだ……』


そう語り始めるサトシの姿はあの頃とそんなに変わってはいない。
だけど、決定的に違うものがあった。


――成長したな。本当に。


ずっと、一緒に旅をしてきた。

別れて、再会して、新しい地方へ旅に出て……。
今までに経験したことと似たような出来事に出くわす度、彼の成長が見て取れた。
それは俺にとって凄く喜ばしいことだった。

きっとこれからも、アイツは今以上に成長していくのだろう。

だけど……。


――俺は、俺はどうなんだ……?




「…ケシ。タケシ!」
「!?」

はっとして前を見ると、サトシとヒカリがこちらを見ていた。

「どうしたんだよ?」
「大丈夫?何だかボーっとしてたよ?」
「いや、何でもないよ」

不思議そうな顔をする2人に俺はそう笑ってごまかした。
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