もう1つの世界

□願うのは
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「ん〜…」
「……」

ほんの少しばかり背伸びをして、
こちらを見上げ首を捻るソイツの姿に少しだけ躊躇ってしまう。
恐らく、自分との身長差を比べているのだろうなぁとは思うのだが。

「タケシ、また背伸びたか?」
「え、いや、自分でもあまりわからんが…」

ちぇっ、と唇を尖らせ拗ねた顔を見せるその年相応の姿に思わず笑いそうになる。
けれど、気付かれたら彼のことだ。尚更不機嫌になるだろうから決して顔には出さないようにする。

「いつか絶対に抜かしてやるからな!!」

ニカッと笑うその顔は、いつも、見下ろしてみているものだけれど。
いつか、本当に抜かされてしまう日が来るのだろうか。
というか……5つ年下のサトシに抜かされる日って。


――正直それはちょっとなぁ……


初めて会った時。
ホウエン地方で再会した時。
そして、今。

サトシは気付いていないかもしれない。
けれど事実、俺とサトシの身長差は狭まりつつある。
本人には未だ教えてやってはいないが。


――傍にいるからだろうな


ずっと、隣に並んでいる自分達。

腹が減ったとせがむ子供らしい顔、
バッジを手に入れて喜ぶ顔、
自分のバトルスタイルに悩む顔、

色々な表情を見てきた。
……ずっと、ずっと。

時が流れ、そうして実感したのだ。
見下ろす視線の位置が変わってきたことに。

これからも、どんどん成長していくサトシ。
そんな姿を目にする度に思うのだ。

いつか、来るであろう別れの時を……。


「タケシ?」

だってほら。
頭に置いた手の位置だって大分変わってきているのだから。

「なぁ、サトシ」
「何?」
「お前はお前でいてくれよ」
「……へ?」

これから先、幾つもの時が流れても。
もしもこの先の未来に俺達の別れがあったとしても。


俺が俺であるように。
お前はお前のままでいてくれ。


変わるモノ変わらないモノ

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