もう1つの世界
□ぐらり、*
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※タケ→サトでタケシがかなり暗いです。
「!?」
ポケモンセンターの一室。
今はまだそれぞれが夢の住人になっている時間帯。
辺りが静寂に包まれている中、ベッドに横になっていた一人が突然飛び起きた。
「……ッ」
未だドキドキと鳴り続ける鼓動。
初めてのことだった。
「………夢、か」
荒い呼吸を繰り返していた彼……タケシは辺りを見回して今までのことが夢だと瞬時に理解した。
それに合わせて動悸も少しずつ治まってくるのを感じた。
「……」
じっと自分の両手を見つめた。
夢というのは不思議なものだ。
所詮空想でしかないのに、”この手で触れた”という感覚が起きてからも残っているなんて。
そして思い出すのは先ほどの夢。
暫くの間、無表情で自分の手を眺めていたタケシはゆっくりと視線を隣へ移した。
自分がいられる間はずっと傍にいたい。
それは確かな本心だ。
けれど……。
「……参ったな」
タケシは溜息を吐いた。
それは普段稀にする苦笑を浮かべての軽いものではない。
躊躇いを含む暗く重たいものだった。
今さっきまで見ていた夢。
それは恐らく自分自身が”閉じ込めている本心”だったのだ。きっと。
その華奢な体をこの腕で閉じ込めた。
それも、普段なら決してしないほどの強い力で。
伝わる暖かさが心地よい。
腕の中、動くことが出来ずにいた彼は最初こそ戸惑いを見せていたもののすぐに大人しくなって。
そのままゆっくりと胸にその頭を預けた。
それがまた自分をどうしようもない気持ちにさせて。
……普段の自分なら絶対にありえないことだった。
夢の中、ぷつんと理性が切れたのがわかった。
『――……』
『!?』
こちらを見上げて目を丸くする彼。
そんな彼を、自分は何も言わずにもう一度強く抱き締めていた。
「…サトシ……すまない」
小さく微かに震えた言葉は誰にも届くこと無く、静かに暗闇へと溶けていった。
『好きだ』
その、たった一言が、言えない。
(偽り続ける想い)