もう1つの世界

□笑っておくれ*
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熱くなりすぎた、なんてこと。
自分が一番わかっていたのに…。




スバメがワンリキーに負けたとき、余裕が焦りに変わった。

すぐに勝負をつけてやる!、そう思って挑んだジム戦だった。


キモリがワンリキーに勝った。
でも、既にキモリは疲れ始めていた。

トウキさんがマクノシタを出した。
オレ達がどんなに攻めても全部受け流されてしまった。


途中から、自分が何をしてるのかわからなくなっていた。


……マクノシタがハリテヤマに進化した。



『サトシ、キモリはもう限界だ。ギブアップした方がいい!』

『今の君にハリテヤマの相手は無理だ』



――うるさい!そんなの、そんなのやってみないとわかんないじゃないか!!



……でも本当は、勝てないこと、わかってた。
だけど、遊んでばかりのジムリーダーに負けるなんて情けないじゃないか!


ここでギブアップするなんて絶対にしたくなかった。


自分の感情がコントロール出来なくて、
自分でも、何を言っているのか半分理解出来てなくて。

結果的に、オレはキモリを傷つけた。
……傷つけるだけだった。




『早くキモリをポケモンセンターに連れてってやるんだな』

『ポケモンが、こんなになるまで試合をするなんてどうかと思うわ』

『熱くなりすぎたな』

『引き際が肝心だよね』



悔しかった。イライラした。
皆に……そして何より、自分自身に。



『サトシ、頭を冷やせ!!』

『うるさい!!』



思わず涙が零れそうだった。


皆に八つ当たりしてポケモンセンターを飛び出して。
そのままトボトボと海岸を歩いているとトウキさんとハリテヤマに会った。

そこで、オレはようやく自分が誤解をしていたことに気が付いた。

後からオレを追いかけてきた皆にポケモンセンターでのことを謝って、もう一度センターへと戻ったんだ……。










治療室で横たわるキモリ。
サトシはじっとその姿を見つめていた。

……肩に乗るピカチュウが、その後ろ姿を仲間達が心配そうに見つめていたことにも、気付かないほどに。


「…オレ、ちょっと外行ってくる」

「ピカピ!!」

「え、ちょっとサトシ!!」

「もう外真っ暗だよ!?」


夕飯もあまり手をつけずに席を立ったサトシ。
その表情は帽子に隠れていて見えない。

慌てて追いかけてくるピカチュウの足音、
驚いた声で自分を呼び止めようとする姉弟の声。

色々な音を耳にしながら、サトシは外へと飛び出して行った。


ただ一人、何も言わず黙って自分を見送る人物の視線を背中に感じながら……。
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