もう1つの世界

□悪夢におさらば*
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それはあまりにも突然すぎる出来事だった。

ダークライの手から放たれた黒い球状の何かがサトシを包み込んだ。
かと思えば、それは瞬く間に無くなっていた。

同時に、静かに倒れる体。


「「サトシ!」」

「ピカピ!」


地面に倒れているサトシ。
その表情はかなり苦しげなものだった。


「急いで彼をポケモンセンターに連れて行こう!!」
「「はい!」」

ト二オさんに言われて俺はサトシを背負った。

「ポケモンセンターならこの近くにあるわ!」

アリスさんに案内されながら、俺達は走り続けた。

耳元を掠める呻き声。
必死に呼びかけるピカチュウとヒカリの声。

困惑しているのは俺だけではない。

一体、何があってこうなってしまったのか。
今はわからないことだらけだった。


ポケモンセンターに到着し、ベッドに寝かせてからもサトシの容体は変わらなかった。
苦しげな表情を浮かべる彼に不安顔でピカチュウが寄りそう。
ジョーイさんの話によれば、サトシはダークライが持つ”ダークホール”という技を受けてしまったらしい。
体に異常があるわけではなく、悪夢を見させられているのだと。


実際、サトシが目を覚ましたのは日が暮れかけた頃だった。

大丈夫か、と尋ねると平気だ、という返事が返ってきた。
顔色もすっかり良くなり、とりあえず俺達は皆一安心した。

とりあえず、今晩はそのままポケモンセンターに泊まることにした。


その夜。


「なんだ。まだ起きてたのか?」


風呂から出て寝室へ戻ると意外にもサトシはまだ起きていた。
向かい側のベッドではヒカリとポッチャマが仲良く眠っている。

時計が示している時刻はいつもなら既にサトシも寝ている時間帯だ。
彼の枕元では小さな寝息を立てながらピカチュウが丸くなっていた。

淡いオレンジ色のスタンドの光が、横になっている彼の表情を照らしていた。


「……眠れないのか?」


隣にある自分のベッドに腰を降ろしながら優しく尋ねると、
うん、と数時間前とは違う弱弱しい返事が返ってきた。

「なんかさ、このまま寝たらまた悪夢を見そうな気がして。……そう思ったら眠れなくなってさ」

なんだか情けないよな。
そう苦笑を浮かべるサトシは本当に、自分でもどうすればいいのかわからない様子で。

「…ちょっと待ってろ」
「タケシ…?」


サトシにはそう言い残して、俺はロビーへと向かった。
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