もう1つの世界

□まだ見ぬ未来の先に
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「なぁ、シルブプレってどういう意味なんだ?」


立ち寄ったお洒落なカフェテリアでのひとときに投げかけた小さな疑問。特に意味は何もないのだけれど知りたかったから聞いてみただけ。

しかしどうやらこの言葉には結構な破壊力があったらしい。

問われた少年はティーカップに口付けたままげほげほとむせた為にメガネや顔がびっしょりと濡れる被害に遭っていた。なお、自分の隣に座っている少女はぴしりと固まっている。
何故かパートナーにも意味ありげな視線を向けられてしまい、ますます疑問符は取れない。

微動だにしなかったのは聞いた自分と、"シルブプレ"のフレーズを口にしている張本人だけである。

「え〜!サトシ知らないの?」

ユリーカびっくり!そう言ってまん丸い目を更に大きくさせながら美味しそうにクレープを頬張る妹に溜息をつきながら、兄であるシトロンも実は内心で同じことを思った。

大きい街に小さい街。旅をしている以上、その街の人を頼ることは当然だと思う。
その時、相手が女性の方であると必ずユリーカが掛けるあの言葉。
シトロン個人としてはお願いだから止めてくれという思いしかないが、一緒に旅を始めてそれなりの月日は経っているわけで。

まさか今になって聞かれるとは。つくづく、斜め上を行く人だと思わずにはいられなかった。

「外国語ですよ。まぁ、その…お願いしますという意味です」
「お願い?」
「お兄ちゃんのことを幸せにしてください!っていう意味だよ。お嫁さんこーほ!」
「ユリーカ!声が大きいよ!」

真っ赤になりながら周囲を気にするシトロンを見ながらサトシはああなるほどと理解した。
意味を知らなかっただけで、ユリーカがどんな意図を持って使っているのかは何となく分かっていたから。

そして何より、似たような光景を随分前から見ていたから。
あれはあれで随分レパートリーが多かった気がするけれど。

「今度お姉さんに会ったら、サトシのこともお願いしよっか?」
「え?」

遠い思い出に記憶を巡らせていたサトシを我に返らせたのはそんな可愛らしい一言。

「だって、サトシも男の人だし。なんかちょっと危なっかしいところあるんだもん!ねーデデンネ!」
「え…オレ?」

「だからダメです!」
「それはダメ!」

2人の声に周りがしんと静まり返る。
今まで会話に一切介入してこなかった仲間の焦ったような表情にサトシ達もぽかんとしたが、ここがどこだったかを思い出し真っ赤になりながらボソボソ言葉を続けるセレナにサトシは優しく微笑んだ。

「えっと…だから、その…」
「ユリーカ、オレはいいよ。そういうの興味ないんだ」

そう伝えればユリーカは残念と楽しそうに笑って言った。
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