貰う恋
□木々のざわめき、川のせせらぎ
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その時、かの稀代の大陰陽師、安倍晴明が襖を開け、入室してきた。
「熱を出したと聞いておるが、大丈夫かのお?」
「じ……じぃ様……。」
月夜は首を傾げながら問うた。
「お爺様、いかがなされたのですか?」
昌浩の看病なら私と彰子ともっくんで致しますが。月夜が続けると、晴明は実はの、とのんびりした口調で話し出した。
「風邪薬がきれてしまっていてのぅ、月夜か彰子姫に買って来て欲しい所なんじゃが、聞いた話によるとその店が開いてないらしいんじゃ。」
すると月夜はじゃあ、と言った。
「昌浩の看病は彰子におまかせしてもよろしいのでしたら私が山に採りに行きますが。」
お爺様が山を登るのは少々おつらいでしょう。
「うむ、よろしく頼む。
紅蓮を連れてっても構わんから」
「一人でも大丈夫ですよ」
月夜が微笑みながら答えると、物の怪が制止の声をかけた。
「いや、俺も行く。
お前一人では少し心配だ。」
「どうせもっくんは姉上と二人っきりになりたいだけだろ……。」
昌浩のポツリとした呟きに物の怪は胸を張り、それもある。と答えた。
「威張るなっ!!」
「ま…、昌浩!!起き上がったりしたら熱がっ!!」
物の怪を一発殴ろうと起き上がる昌浩、それを止めようとする月夜、その横できょほきょほ笑っている物の怪。
それを眺めていた晴明は物の怪と月夜に早く行かないと直ぐに日が暮れると言い、急かしたのだった。
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―――数刻後―――
月夜の腕の中の籠には薬草がたっぷり入っていた。
「疲れてないか?少し木陰で休むか?」
大好きな旦那様が心配そうに顔を覗き込んでくる。
彼の金の瞳にはありありと心配です。という感情が映っている。
月夜は少し微笑むと頷い
た。
「少し……、休みたいわ。」
「そうか。」
紅蓮は瞳をフッと和ませると、ある方向を指さした。
「彼方に川が流れていたからそこで休もう。
……そこに行くまでの坂が急だからこけるなよ。」
紅蓮が苦笑気味に伝えると、彼女は返事をした。
―否、しようとした。
「大丈夫よ。分かってい……きゃあああ!?」
バッシャーン!!
「…………。言ったそばから……。」
紅蓮は頬をひくひくとひきつらせ、前髪を書き上げながら嘆息した。
派手な水音が聞こえた事から川に落ちたのであろう。
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