貰う恋

□木々のざわめき、川のせせらぎ
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「ほら、ここら辺は危ないから掴まれ。」

「あ、ありがとう。」


差し出された褐色の手を月夜は言われた通りに握ると、上にいた紅蓮に引き上げられた。


「此処は足場が悪いから油断するなよ。」

紅蓮はさりげなく月夜を抱きしめながら言った。

「大丈夫、ありがとう紅蓮。」


二人が立っている場所は大きな岩。

しかし大人一人が立って少し余裕が出来るくらいの幅なのでかなりぎゅうぎゅう詰めだ。
二人が山奥にいる理由の発端は月夜の弟にあった。

それは今朝の事である。



「うぅ……。風邪で出仕を休むなんて一生の不覚……。」


少年―――昌浩は茵にねっころがっていた。
彼の額には水で冷やされた手拭いが乗っかっている。


「このままじゃ、晴明の末孫病弱説がさらに広まるかもなぁ……。」

「孫っ……言うなっ……!!」


昌浩の隣に動物座りをしていた物の怪はニヤニヤ笑いながら彼の禁句を言った。

しかし体に染み付いた習慣とは恐ろしいもので。
昌浩は高熱を出しているにも関わらず言い返した。

流石に怒鳴り付ける気力はなかったようだ。

その時、すっ……。と襖が開いた。


「昌浩……。大丈夫……?」

「あ…姉上…?」


昌浩は、自分は熱に犯されてとうとう幻覚までみえだしたのか、と思った。

すると昌浩と同じ疑問を抱いた物の怪は、首を傾げながら問う。


「月夜……。
お前……出仕は……?」


月夜は昌浩と物の怪の側に来ると、弟の頭を優しく撫でながら言った。


「可愛い弟が風邪をひいているのに出仕なんてできないわ。」

「姉上っ……!!」

昌浩はジーン……と感動しているようだ。
風邪をひいて熱が出ている時は何故か涙腺が緩みやすいらしい。




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