ネコ伝

□てんてん
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暗い

光は小さな窓から差し込む光と、蝋燭の小さな灯火だけ

外には出られない

自由もない

ここは闇の底だから

ここは牢だから



その牢の一室で、ライナは伸びをした

黒く、しなやかで上品な尻尾がふわりと揺れた

黒く、ピンと上を向く耳がピルピルと動く

彼の耳は、誰かの足音を捉えていた

足音は彼の入っている牢と廊下を隔てる扉の前で止まった

「入るぞ〜」

と、そんな声と共に入って来たのは

黒に近い焦げ茶色の紙に、同色の耳

そして同じく同色の太い短めの尻尾が特徴の看取

通称、“看取のおっちゃん”

「おはよぉ、おっちゃん」

「おう!」

看取なのに囚人に優しい彼は、ここでのライナの話し相手である

しばらく黙って看取を見ていたライナは、何かに気付いたように言った

「また奥さんと喧嘩した?」

今までニコニコと笑っていた看取が、ガクっと膝から倒れる

「何も言うな・・・」

「(また浮気ばれたのか)」



ライナがここへ来てもう一年

今、外がどうなっているかは解らないが

不味いけれどご飯は3食出て、しかも寝放題。稽古は勿論なし

王の命令か、それともシオンの命令か

理不尽に殴られる事は勿論、殺される事もない

他の囚人の話を聞くと、ちょっと憂鬱にもなったりするが

ここはライナにとって快適な場所だった



「おっちゃんも変わってるよなぁ・・・」

がっくりと項垂れる看取と目を合わせるように座る

尾を手で梳きながら欠伸をした

「何が」

そんな急な問いかけに、看取は顔を上げた

「俺ってば黒猫だぜ?なのに仲良くするなんて・・・」

出会って早々“よろしくな!”

と言われたのにも驚いたが、一番驚いたのは黒猫を怖がらないという事だ

一年も一緒にいると、その不思議も増す一方

看取は、うーん・・・、と唸っていたが、はっきりとこう言った

「黒猫だけど、子供だろう」

そんな奴に罪はないさ、と看取は笑う

それに

「そっか」

と、困ったように笑って返した

ここまで馬鹿な奴は今まで一人・・・と加えて四人しか知らない

銀髪の恋人と、金髪の超人一家

「そっかぁ・・・」

上を見ても、空は見えない

それでも天井を見上げ

まだ会えないだろう、彼を思った
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