ネコ伝

□ふぉげっとみなっと
2ページ/3ページ

「始めるぞ」

シオンは自室で、そう声をかけた

彼の後ろにいるのは、ラッヘル・ミラー

眉間の皺が特徴の、二十代後半くらいの男

「あぁ。ようやくチャンスが巡ってきた」

「アイツが戦争を起こしてくれて助かったな」

―民の心を味方につけやすくなる

そう言って笑うシオンの顔を見て、ミラーは嬉しそうに笑う

「やはりお前は出来がいい」

兄弟達と出来が違うのは何故だ?と問われ、シオンは少し悩む素振りを見せ

しばらくして自信満々に言った

「母のおかげさ」

「平民だからか?」

「俺の母は欲がなかったんでね」

金が欲しい。権力が欲しい。全てが欲しい

そんな欲に塗れた女共とは違う、美しい女性

本当の夫がいたのに、美しさを理由に娶られ

そして子供を作らされた、可哀想な女

病で死ぬ直前まで、やはり美しく笑っていた母の顔を一瞬だけ思い出し

頭を振ってその顔を消す

もう、必要のない人だから

シオンは机に歩み寄り、上に乗っていたたくさんの人物の資料と

これからの流れや作戦が書いてある分厚い書類を手に取る

「人員収集は任せるぞ」

「はっ」

「ヘマ・・・するなよ」

「誰に言っているんだか」

挑戦的に笑う男を見て、シオンは笑った

それもそうだ、と言って

この男はシオンが生まれる前から計画を練り、進めてきた

彼の父も同じように計画を練ってきた

その父よりも、念入りに細かく、先の先まで予想して

シオンの兄たちを利用して、この国を腐らせている貴族共を利用して

用がなくなれば殺した。自分の予想より能力が低ければ殺した

王族と貴族に頭を下げ、媚びへつらってきた男は

最後にシオンに辿り着いた

当時まだ4歳だったにも関わらず“王の牙”であるエリス家を従え

誰よりも王を憎み、政治に不満を持ち

そして誰よりも慈悲深い彼に・・・

―これで計画が進む!達成できる!

そして、幼い彼と彼の牙と、計画をじわりじわりと進めてきた

「頼んだぞ、ミラー」

まるで何かの証のように、尾に付いた鈴付きチョーカーを鳴らし

ミラーは出て行った

「ロル!」

「は」

窓から入って来たのは、シオンとあまり歳の変わらない少年

シオンの前に跪き、命令を待つ

「今から言うことをしてくれ」

「解りました。・・・例の黒猫ですか?」

「そんなとこ」

「任せてください」

彼の尾にもついている鈴を見ながら、シオンは―・・・



「ライナ、起きているかい?」

「・・・あぁ」

レルクスは、一度部屋を出て戻って来た

手には、白い封筒が

その封筒をヒラヒラと振りながら

「シオンが、こいってさ」

ピクリと耳が動き、ライナが起き上がる

「でも・・・」

「さっきまで、行きたくて仕方がなかったみたいだけど?」

行ったとしても、今彼に何を言って良いのかが解らない

ライナが迷っている理由はそれだった

「呼んでるんだ。行っておいで」

―フェリスには私が言っておこう

一瞬、言葉の意味を掴みあぐねたが

“ライナがいない!”と心配して探すであろう彼女を想像して

ぷっ、と吹き出す

「あのさ・・・さっき、取り乱してごめん」

「大丈夫さ。ほら、行っておいで」

頭を撫でられると、ライナはすまなそうにシュンと耳を下げる

「でも・・・」

そう言った瞬間だった
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ