ネコ伝

□ふぉげっとみなっと
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戦争が始まった

隣国のエスタブールとの戦争が

蒼く美しい毛並みの猫が多いエスタブールは、とても美しい国だった



この国―ローランドは、雨が少なかったため水不足になってしまった

その不足を、エスタブールを領土にすることで解消するつもりらしい

ただ問題は、ローランドには食料もないということ

水不足に伴い、食物が育たなかった。そのため、食料が足りないのだ

つまり、この戦は長引けば長引くほどローランドに不利になる戦争だった



それが理由で、もしもの時の保険が用意されていた

それは王の首と

王子である、シオンの首

この二つで、ローランドが吸収されるのを防ごうというものだった

シオンには、たくさんの兄弟がいる

その中でシオンは、最も優れていて一番王に相応しかった

しかし末っ子だったために、その命は戦争に使われる事になってしまった



  ◇  ◆  ◇



「はは」

シオンは笑う

まさか、この日に戦争が始まるとは思ってなかった

ずっと欲しかったもの

5年間、ずっと欲しくて欲しくてたまらなかったものが

ようやく手に入ったのに

「・・・ライナ」

強く、美しい黒猫

たまに、寂しく笑う少年

ずっと欲しかった者

ようやく手に入れたのに

「さようなら」

手放すしかないなんて・・・

寂しがり屋で、心配性な彼のことだから

きっと、止めようとするだろう

そうすれば、ライナまで傷ついてしまう

だから

だから・・・



彼は笑った・・・・



  ◇  ◆  ◇



「ライナ!駄目だと言っている!」

「・・・、!」

場所は変わってここはエリス家

シオンを城へ送って、王の話を一緒に聞いて

そして帰ってきたレルクスの話を聞いて、ライナは後悔した

―俺が彼を好きになったせいで・・・!

黒猫は、不幸を呼ぶという

だから、王は国を守る為に黒猫を殺す

なのにその黒猫のライナを、シオンは好きになった

“黒猫でもいい”と言ってくれた

彼の想いを受け入れ、さらに自分が今以上の幸せを望んだから

「シオンが・・・」

彼が不幸になってしまった

「ライナ落ち着け、お前のせいじゃないから」

「俺のせいだ、」

「違う。お前は関係ない」

先程からフェリスがこう言っているのに聞かない

いや、聞こえない。聞きたくないのだ

―会いたい。会って、別れを告げて・・・

ライナの中にあるのは、それだけ

「兄様も止めてくれ」

後ろで楽しそうに見ていたレルクスが、フェリスのその困ったような声に動く

「仕方ないね」

「?、レルクス?」

ライナの前に立ちその首に手刀を落とそうとするが、

ライナはそれに素早く反応し、防ぐ

「おや」

逆にレルクスを気絶させようと鳩尾に拳を叩き込もうと動く

が、その手を止められ下に重さを加えられる

バランスを崩し、前のめりになって狙いやすくなった首に容赦なく手刀を落とされ

ライナは気絶した

「隙が多いよ、ライナ」

そのまま彼を抱え上げ、寝台に寝かせる

「兄様」

「大丈夫。大丈夫だよフェリス」

―だから君も少し眠ろう

不安で一杯で一杯で押し潰されそうになっていたのに

ライナを気遣って声をかけていた彼女は、そう言われると安堵の表情を見せる

その彼女にも手刀を叩き込み、ライナの横に寝かせた

「大丈夫だろう?シオン」

彼の小さな呟きは、闇に呑まれて消えた
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