ネコ伝

□でぃすたんす
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チリン、と音が鳴った

その音に反応して、意識が浮上する

「(―、あぁでも)」

このまま寝ていたい

誰かが優しく、頭を撫でてくれている。それがとても気持ちいい

まるで、母親が撫でてくれているような

暖かくて、それでいて心地良い

どうか夢なら醒めないで

この温もりが、幸せが

今感じているのが全て夢なら、どうか醒めないで



しかし意識は、それに反してどんどん浮上していって



「―・・・・」

銀の髪が、窓から入る風に揺れる

金の瞳を閉じて、シオンは息を吐いた

今、彼がいるのはエリス家の一室。ライナの部屋

先程レルクスに呼ばれて此処に来た

丁度彼もレルクスに用があったため、それに応じたのだった

その用というのは、“己”が一つになったというのを伝える事

これを聞いたレルクスは喜んだ

『これで“君”の剣になれる』―と

「・・・・〜、ぅ」

銀の耳が小さく動き、瞼がゆっくりと持ち上がる

彼がレルクスに呼ばれた理由

それは、ライナと話すため

黒い尾が、布団の下で小さく動いたのが解った

―できればもう少し寝ていてほしい

そう思ったシオンは、彼の頭をそっと撫でる

その動きに、服に付いていた鈴がなった

―しまった

そう思った時には遅かった

「・・・、シオン?」

瞼が上がり、黒い双眸が見える

焦点が合わないのか、しばらく宙を彷徨っていた瞳が此方を見る

まだ眠いのか、若干トロンとしているのだが

―せめて心の準備ができるまで寝ていてほしかった

そんなことを考えていたシオンを見て

ライナは幸せそうに笑った

「、ライナ?」

頭に置かれたままの手を、自分の頬まで持ってきてそれに擦り寄る

ほぅ、と息を吐いたライナは幸せそうな笑みを浮かべたまま言った

「夢じゃ、なかった」

今まで感じていた温もりが、幸せが

その全てが夢じゃなかった

それが嬉しかった

もし、夢だったら

ずっと眠ったままがよかった

シオンは、ライナの顔を見て唇をキュッと結んだ

「?、シオン・・・?」

「ごめん」

その言葉の意味を、ライナは理解できない

シオンはすっと自分の手を引く

「距離・・・間違えた。近付き過ぎた。ごめん」

5年前のあの日のせいで、人との付き合いが苦手になったライナを

“黒猫”として距離を取るようになった彼を

シオンはこの5年間・・・出会って、仲良くなって、好きになってからずっと見てい


自分が傷つかないよう、相手も傷つかないよう

“黒猫だから”と悲しく笑うライナを、ずっと見てきた

その、空いていた距離を縮めてしまった

それは、ライナにとってとても怖いことで・・・

「ごめんな」

ライナは、何度か瞬きした後むくりと起き上がった

「俺さ、解らなくなった」

「・・・、何が?」

「お前との距離とか、どうして離れようとしたのか、とか」

それは・・・と言おうとしたシオンを、手で制す

「だから、寝てる間ずっと考えてた」

「うん」

「臆病者になって・・・馬鹿みたいにビクビクして・・・・

 それで良い事なんてあったか、とか色々考えた」

「うん」

「でもさ」

ライナは笑う

悲しそうに、笑う

“黒猫だから”と言うときの、あの顔で

「ライ・・・」

「わっかんね〜もんでさぁ。これが」

話を聞け

ライナは口には出さないが、そう伝えたいらしい

シオンは、うん、と相槌を打つ

「でもな?俺、一つの結論に辿り着いたわけなんだよ」

「結論?」

「そ。解らないなら、間違っても良いって事に」

言って、ライナの顔から笑みが消える

まるで、迷子の子供のような

困ったような、寂しそうな、泣きそうな、そんな顔

「間違っても、大丈夫・・・だよな?」
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