ネコ伝

□あなざー・すとーりー
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『下ろせ。誰に刃を向けている』

それは、少年とは思えぬ言い方だった

瞳は、冷たく凍てついていて・・・

一人一人侮辱するわけでも

見下すわけでもない

ただ、凍てついた瞳で、兵を

王を、見据える

『下ろせと言っている。これは命令だ』

その声に、兵は反応し槍を下ろす

彼らがその胸に抱いているのは、畏怖

“シオン”への、恐怖だ

『用件はそれだけですか?』

王は何も言わず

否―言えずに頷くだけ

それに、美しい銀の尾を振り微笑む

『大事な話なら、後で聞きますよ』

そして彼は、王の間を出た

その全てを“内”から見て、“彼”は思った

これが“王の子”なんだ―・・・と



『お前もライナが好きなんだろ?』

部屋に戻ってからすぐに、“彼”にそう言われた

それに動揺すると、“彼”に伝わってしまったようで

“彼”は薄く笑う

『お前もあいつが欲しいんだ』

“彼”は「も」と言った

それはつまり、“彼”もライナが好きだということだ

『どうして好きになったんだ?』

どうして

どうして?そんなの解っているくせに

時折ライナからされる、「どうして優しくする?」という質問

答えは好きだから。大事だから。大切にしたいから

でもそれを言ったら、きっとライナは傷つく

自分の中に作った壁を壊されて、自分自身に・・・

自分の心に触れられて

そうして心を許した相手に裏切られるのが怖くて

「黒猫だから」と言って一歩退く。そう言って傷をつける

自分の心に傷をつける

だから言わない。言えない。好きと言えない

じゃあ、どうして好きになったのか?の答えは?

そんなの、「ただ惹かれたから」としか言えない

好きになるのに、理由なんてないのだから

ライナと話すだけで、どんどん好きになって

どんどん彼に溺れてしまう

好きになったきっかけは、ただ単純に

そう、単純なんだ

『一目惚れ・・・か』

そいつは笑う

本当に嬉しそうに、笑う

そうして身体を返してくれる

俺と一緒だな、と言って“彼”は眠りにつく

自分の身体が自分に返ってきて、そして感じた

心にポッカリと穴が空いたような感じを

そしてどうしてかと考えてみて、気付く

拒絶されたからだと

愛されたかったのに、拒絶されてしまったからだと

埋めたい

埋めたい

埋めたい!

そこで思い浮かんだのは

ライナの顔だった・・・・
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