ネコ伝

□あなざー・ぱーそん
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追われていた、と言うとどうなるか

間違いなく兵に引き渡されるな、とそれは除外

会いに来たと素直に言うのは・・・

まず「会いに来た」というのがクサイ

そう考えて・・・・考えた末に

「寝るのに良さそうだったから忍び込んでみた」

なんて言ってしまう

内心「しまったあああぁぁぁぁぁ」と叫んだ

少年はというと、驚いたような顔をしていた

しかしそれは一瞬。次には嬉しそうな笑顔になった

「僕はシオン。君の名前は?」

ライナの耳が、ぴくりと動く

「ライナ」

そう言ってのそりと起き上がって

「え、ちょ・・・」

窓から彼のと思われる部屋へと侵入

シオンは困惑していたが、部屋に入るのを見てまた嬉しそうな笑顔へと戻る

その笑顔に、ちょっとだけ心を許してしまう

いや、その笑顔を見るだけで心があったかい気持ちで満ちてしまう

だから

「(ちょっとだけなら信用してもいいかな?)」

なんて思ってしまった

そんなライナにシオンは言った

「気に入ったから僕のものになってよ」

髪に付いていた葉を取っていたライナは、思いっきり顔をしかめた

「ヤだ」

「え?なんで」

王子だからなんでも手に入れられる

そんな環境の中で育ったせいか、本気で不思議そうな顔をする

「なんでってそりゃあ・・・」

「黒猫だから、なんて言ったら怒るぞ?」

それに、ぅぐっ、と詰まった

その通りのことを言おうとしていたから、二の句が継げない

「俺は“お前”が欲しいと言ってるのに?」

どきりとした

というか驚いた?

つい今まで話していたのとはまるで別人

そこで、先程の違和感がなくなった

「(別人なんだ・・・)」

二重人格というのを知ってはいるが、こうして話すのは始めてだった

「よく来たな。えっと・・・・ライナ?」

「うん」

幼いくせにどこか大人びた顔でニコリと笑い、銀色の尾をふわりと振った

そのままシオンはタンスへと向かい、そこから茶色の真新しいローブを取り出した

「やるよ」

王族が着ないだろうそのローブを受け取ろうとして、コートを思い出す

そのコートをきちんと畳んでから

「これ、ありがとう」

返した

シオンはコートを受け取ると、手に持ったローブをライナの頭から被せる

「んむ」

急に目の前が真っ暗になって驚く

この場所に来てから驚いたりドキドキするのが多くてうんざりする

モソモソと頭を出しながら溜息を吐いた

ローブにはフードも付いていて、髪も尾も隠れるようになっている

「ありがと・・・」

「サイズがピッタリで良かった」

隠すのが大変だった、と付け加えられた言葉に

「どうして優しくしてくれるんだ?」

尋ねてしまう

“黒猫は殺せ”という命令を出した王の実の息子が、どうしてそれに反することをす
るのか

それが解らなかった

ライナの問いに少しだけ悩んでから、シオンは真っ直ぐとライナを見据えて答えた

「父とあいつのやり方が気にくわないから」

「・・・・あいつ?」

「あ〜・・・もう一人の俺って言った方が良いか?」

「だいたい解った。さっきの・・・僕ッ子だろ?」

それにシオンは吹き出した

「ぼ、僕ッ子って・・・!面白いこというなぁ」

「うぅぅぅ!うるさぁい!」

真っ赤になって怒鳴ると、シオンは声を出して笑い始める

一頻り笑うと、息をついてシオンは教えてくれた

“自分”について
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