ネコ伝

□えんかうんと
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それから会話がなく、10分くらい経った頃だった

「席を外してくれ」

感情を感じさせないその声は、少年とは思えないように冷えていた

男は命じられるがままに遠くへ行く

その足音は、何故か嬉しそうに聞こえた

さてどうしたものか、と考え始めたライナの耳に

小さな呟きが聞こえてくる

「・・・ごめん」

誰に向けられた言葉なのか

少し気になって木からスルスルと下り始める

その瞬間

「っっっ!?」

バキィッという音と共に木が折れる

地面に叩き付けられる前に身をひねり、着地をして・・・

しまった、と思った

着地をしたのは見事に少年の前

「黒猫・・・」

小さな声は、ライナの耳に届く

顔は上げずに下を向いたまま逃げだそうとするライナを、少年は慌てて止める

「待って!僕は何もしない!」

「嘘だ!黒猫はみんな殺されんだろ!?」

少年が近づくのと同じだけ、後ろに下がる

尻尾をピン立て、威嚇するように身を低くする

「昨夜・・・父さんと母さんが殺された。家も、燃やされた」

哀れんでほしいわけではなかった

ただ、彼がどんな反応をするのか知りたかった

燃やされた家を見たいと言っていたらしい彼が、どんな反応をするのか

喜ぶのか

馬鹿にするのか

同情するのか

それが知りたかった

ただ、それだけ

しかし帰って来たのは予想外の答えだった

「ごめん」

驚いた

ライナは顔を上げそうになるが、それを押さえる

「ごめん。俺に、もっと力があれば・・・」

「は?・・・ぁ、え?お前何言・・・」

「俺のせいだ」

強く言われたその言葉に、ライナは押し黙る

妙に大人びた少年が問いかけた

「君の、名前は?」

「・・・・」

「名前」

ライナ、と言おうとしたときだった

「黒猫め!」

怒声と共に石が飛んできた

どうやら先程の男が帰ってきたらしい

石はギリギリの所で当たらなかったが、その行動にライナは「やっぱり」と思った

「お前は人を信用させんの上手いな」

顔を上げて、悲しく笑う

そこで始めて少年の顔が見えた

美しい、銀の髪の猫だった

金の瞳が、驚いたようにこちらを見ていた

「お前は、敵だ」

そして周りも全て敵、ライナはそう思った

少年はすい、と楽しそうに眼を細めると楽しそうに言った

「いいや。お前の味方さ。で、名前」

「っざけ・・・!」

少年は言葉を遮り、自分の来ていたコートをライナへと投げる

それを受け取り、理由を聞こうとして止まる

少年の瞳が、“少年”じゃないのだ

どこまでも冷え切っていて、その眼で男を見据えている

「・・・邪魔だな」

そう言うと、男へと近づいていく

ほっと胸を撫で下ろす男ににこりと微笑んだかと思った瞬間

少年は男の鳩尾に一発いれた

どさりと倒れた男を冷たく見たかと思うと、またこちらを見て今度は優しく笑う

「城においで。待ってるよ」

何故か紅くなった顔を隠すように、投げられたコートを頭に被せて走る

「なんなんだよ、あいつ・・・」

コロコロと表情の変わる、美しい少年の顔を頭から追い出すように横に振る

知らずの内に力の加わった手は、少年のコートを握っていた





ライナが遠くへ逃げたのを見て、少年は息を吐いた

「また、犠牲が出た・・・」

彼の父は―この国の王は、迷信を信じてしまっていた

黒猫は不幸を呼ぶ

そんなのは迷信だ

第一、 前王のときは

彼の祖父がこの国の王だったときは、色に関係なく平和に暮らせていた

黒猫も、人々の中に混じり楽しそうに笑っていた

不幸なんて、呼んでいないのだ

少年―シオンは唇を噛む

血が出てしまう程の力で、噛んだ

「(俺のせいで・・・まだ俺に力がないせいでっ)」

父を止める力も、黒猫を守る力もない

それを、シオンは悔しく思う

あまり年の変わらなそうな、先程の黒猫は全てを失った

自分の命以外の、全てを失った

誰も声をかけない

誰も味方にならない

帰る場所も、頼れる者もいない!

孤独の中に一人というのは

周りが敵だというのは

どれだけ悲しいのだろうか

「なら・・・」

俺が彼の味方になればいい

シオンはそう思った

彼らの、黒猫たちの味方になる

そう決めた

シオンの横に、一人の人物が舞い降りる

それは、あまり彼と変わらない年の金の猫

「何か良いことがあったかい?」

蒼い瞳でそう問う彼に、シオンは笑って答える

進む途(みち)は、もう決めた

「帰ろうか。“レルクス”」

レルクス、と呼ばれた金の猫は、シオンにとって邪魔な存在となった男を殺す

その小さな手で、頭を潰して嗤う





そして物語はページをめくる・・・・
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