ネコ伝

□のーぶる・ぶらっく
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“彼”は、生まれた時は茶色の綺麗な毛だった

金毛の父と、黒毛の母の間から生まれた“彼”は、“フェルナ”と名付けられた

この国では、黒猫は不幸を呼ぶ者と呼ばれ、忌み嫌われていた

前王のときは、そんなことに関係なく暮らしていたのに

今の王になってからはそう言われ

黒猫は見つかり次第殺された

フェルナの母も黒猫だったが、フェルナの父がリュートルーという貴族だったため王
は手が出せず

最終的に、周囲の反対を押し切り二人は結婚

幸せ、とまではいかなかったが楽しく暮らしていた



そう、あのときまでは・・・



フェルナが5歳になって、それは起こった

茶色の髪の毛に、黒が混ざり始めた

フェルナの母―イルナと、父―リューラはそれに気付かず半年が過ぎた

その頃にはフェルナの髪はすっかり黒味の強い茶色へ

いや、黒と言っていいのか解らないくらい、黒くなっていた

しかし、いつもフェルナと一緒にいた二人はまったく気付いていなかった

それに気付いたのは、たまたま遊びに来ていたリューラの友だった

「フェルナ君も、黒髪か・・・」

瞬間、イルナとリューラの顔が青ざめる

それを見たフェルナは、不思議に思った

黒いことはいけないことなのか

どうして黒は駄目なのか

まだ幼い彼には、解るはずがなかった



その夜、家に火をつけられた

火の手が回る中、フェルナはイルナに殺されかけた

「せめて私の手で」

そう言った彼女の顔は悲しそうに歪んでいて

手にはナイフを持っていた

そしてナイフが、心臓目掛けて突き出される

しかしそれを、ギリギリで駆け付けたリューラが止めた

そのままナイフを奪い、後ろに放り投げる

「大丈夫、君たちは僕が守る」

だからそんな顔しないで

そう言ったリューラは、イルナとフェルナを抱きしめる

その腕の中で、イルナは優しく笑った

いつも通り、優しく笑った

「もういいの。もう、充分・・・」

フェルナを見て、彼女もフェルナを抱きしめる

その行動に、フェルナは嫌な予感しかしなかった

だから、二人の服を掴んで首を横に振る

それを見て、悲しそうに笑うリューラを

それでも幸せそうに笑うイルナを

二人を見ながら、首を振る

「せめてフェルナだけでも、守りたい・・・」

最後にフェルナが見たのは、母の涙と

父の笑顔

首に衝撃が走り、意識が飛ぶ

嫌だと抗ったが、意識が飛んでしまった・・・





彼が眼を覚ますと、そこは外だった

首の痛みを堪え、母を捜す

泣いていた、母を捜す

その母はすぐに見つかった。フェルナは彼女に抱かれていたから

ただ違うのは、彼女が血だらけだということ

呆然としている間にも、彼女は血だらけになる

どこからか遠く

彼女に向かって矢が飛んでくるから

お母さん、と呼ぼうとした声はしかし出ない

どんどん肌が白くなり、血の気を失う母を見ていることしかできない

フェルナが目覚めたのに気付き、イルナは笑う

「フェ、ルナ・・・」

まるで探すように発せられた声に、悲しくなった

僕はここだよ、と言うように彼女の手を握る

すると笑みはさらに深くなった

「強く・・・生きて・・・フェルナは、大・・・丈夫」

彼女の身体から、力が抜ける

そのまま、重力にならって重い方へ倒れた彼女は

フェルナを下敷きに・・・矢を放つ者から守るように覆い被さるように地へ倒れる

「フェルナ・・・?一人に、して・・・ゴメンね・・・

  でも、貴方は・・・一人じゃ、な・・・から・・・」

だから逃げて、と掠れた小さな声で囁いた後

彼女は動かなくなった

ただその眼は、虚空を映し

幸せそうに微笑んでいた・・・

遠くから人の声が聞こえる

その声はだんだん遠ざかって

聞こえなくなる

家の倒れる音、木の燃える音を聞きながらフェルナは起き上がる

母の骸の下から起き上がる



母が逃げてと言ったから

母が自分の命と引き替えに守ってくれたから

だから・・・



「逃げなきゃ・・・」

まだ小さな彼は走る

母の瞼を閉じ、生きているか解らない父と母の骸をおいて

泣きながら、走る



この放火は、黒猫に恨みを持った者により引き起こされたそうだ

関係もない、幸せな

ただ普通に暮らしていただけの家族から

その幸せを奪った

人々は「黒猫がいたからだ」「黒猫と番になるとこうなる」

そう言って、悲しみもしなかった

ただ、一人を除いて・・・・



銀色の耳を揺らし、金の瞳を悲しそうに揺らす彼は

ただ、ただ悔しそうに唇を噛んでいた







これが物語の始まり

彼が幸せを

彼らが幸せを手にするための、物語の始まり・・・
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