ネコ伝

□どきどき
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ライナが出会った少女は、名前をミルクといった

毎日行われる、訓練という名の殺し合いから逃げようとした彼女は

死を選んだ

彼女は酷い怪我を負っていた

あまりにたくさんの血を流しすぎて、もう動くことができなかった少女を

何人もの訓練官が囲み、嬲り殺そうとしていた

ライナはそれを止めるために、一人殺してしまった

止めに入ったライナを放り出そうと後ろから来た訓練官を、手刀で一発

弱い者が死ぬという掟のこの場所で、ライナを咎めようとする者はいなかった

だが、ライナは約束を破ったことに対してと

初めて人の命を奪った事の、その命と罪の重さに今にも潰れそうになって



一ヶ月が過ぎた



「ライナ、ご飯食べよ?」

「・・・いらね。寝る」

パンを差し出していたミルクは、ぷくっと膨れた

「食べなきゃ駄目でしょうライナっ」



一ヶ月前のあの日から、ミルクはライナと共にいた

彼女は、ライナが心に傷を負ったのは自分のせいだと責任を感じていた

死なない程度の実力があったのに、死を選んだせいで

傷つかなくても良い人が傷ついてしまった

それを小さい身ながら理解し、せめて彼が寂しくないよう

彼が少しでも自分を責めないよう、共に居ることを選んだ

自分が、命を救われたことに感謝をしていることが伝わるように

ライナにもそれが少し伝わっているのか、彼女以外には全くと言って良い程に

心を開かなくなっていた

この施設に来てからも、黒猫という理由で的にされた

それを全て返り討ちにして、思い出してしまったのだ

“黒猫は幸せになることができない”ということを



ジェルメの元での生活は、まるでぬるま湯のようで

その心地良い暖かさが、自分が黒猫だということを忘れさせてくれた



だが此所は違う

独りになるのは、怖いことだと一度でも感じてしまったライナは

黒猫を恐れない彼女といることを選んだ

彼女といると、ぬるま湯のような生活がまだ続いている

そんな気がした



「訓練の時間だ、行こう」

「うん」

ライナは変わってしまった

それは、出会ってあまり時が経っていないミルクでも解る

来たとき、少年らしい可愛らしい顔立ちは消えて

今は、どこか人形じみたような

感情を表に出していない、そんな顔をしている

ライナは自分の横に置いておいた短刀を持ち、立ち上がる

「殺す気でやるんだ・・・」

そうでなければ、相手は降参してくれない

視る勲位も聞こえないくらい小さな声で呟いて

彼はその場を後にした







そしてこの日

また別の場所で

戦争を終わらせるための、一つの出逢いがあった

それは偶然か



それとも、必然か・・・
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