工房

□今宵、桜舞い落ちて
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―今宵、桜舞い落ちた



出会った時は、血色が良かった顔

いつも人をからかっていた君

何かあれば先頭に立ち、仲間を守って戦った勇士

だけど目の前に横たわる者は

全て、その反対で

周りには、その人を中心に笑っていた者が

下を向いて、涙を堪えていた



斎藤一もその一人だった

良き稽古相手で、恋人だった目の前の―沖田総司を

“沖田総司”だったものを

ただ、じっと見つめていた

「すみません、少し風にあたってきます」

土方がそれに応じる

藤堂が、心配そうな顔で斎藤を見上げる

それに大丈夫だと作った笑みを返す

もともと斎藤は笑う方ではなかったから

無理をしていると、悟られただろう



「・・・・」

部屋から出て、空を見上げる

憎たらしい程青い空

なんだったら、一緒に泣いてくれれば良かったのに

そう、思ってまた笑った

「・・・・」

一つ、息を吸って、吐く

それを繰り返しているうちに、涙が零れた

沖田が斎藤に残した思い出の全てが、大切で

優しくて

沖田が最期に言った言葉を思い出す

彼の最期は、斎藤が側にいた

『僕の事は忘れて、幸せに生きて』

そう、言われても

斎藤は忘れられなかった

幸せだった時は、沖田と共に生きた時だから

たくさんの人の死を見届けてきた

その度に、涙を一つ零して

彼らの命を背負って、生きてきた

それでも、沖田の為に流す涙はなかなか乾かない

拭っても、拭っても乾くことがない

「・・・っ」

風が、優しく髪を撫でるように吹いた





愛し、愛され、終わる恋

二度と向かぬ愛

零れ落ちる涙は

言えぬ気持ちを濡らしていく



―今宵、桜舞い落ちて・・・
 

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