工房

□無くした温もり― それでも心は
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「無くした温もり―それでも心は」





ふと気がつくと、空を飛んでいた

横を向いていた顔を正面に向ければ、視界いっぱいに黒が映る

それが誰かの背中だと気付くまでに、時間はかからなかった



とても温かくて、それでいて優しくて・・・



その背中が誰のかは解らないけど、とにかく安心できた

背中の主は、ふいに此方を見て声をかけてきた

『起きたか?テイト』

それに、あぁ・・・と自分の名前を思い出す

『俺、どのくらい寝てた?』

そう聞くと、さぁ?という素っ気ない返事が返ってきて、また彼は前を向く

その答えに、少しだけ嬉しくなった

彼なりの気遣いだという事を知っているから

夜、“二人”で寝ることに慣れた体は、“彼”がいなくなった事により眠れなくなっ


だから、こうして移動中に寝てしまう

それを知っているから、何も言わないで寝かせてくれる

それが嬉しい



そこである違和感に気がつく

目の前の男の顔が、認識できない事に

金に輝く綺麗な髪も、大きくて頼りがいのある背中も、聞いていて安心する声
も・・・

その全てを認識出来るのに

顔だけは何かに遮られているかのように、解らない

そしてもう一つ・・・

『あれ・・・』

彼の名が解らない

そもそも自分は部屋で寝ていた筈なのだ

じゃあこれは何か・・・

そこまで考えると、前にいる男は悲しそうに息を吐いた

『気付いちまったか・・・』

『・・・・これ、夢?』

彼は頷く

『お前が俺を呼ぶから、こうして会えた』

―呼んでくれてありがとな

そうして、彼は振り向く

見えたのは、彼の“顔”

寂しそうに、美しい青い瞳を揺らして笑う・・・

彼の顔

『―・・・っ』

全部思い出す

ホークザイルのレース中に、アヤナミと会い

そして引き離された

ただただ切なくなった

悲しくなった

泣きたくなった

叫びたくなった

会いたくなった

『フラウ・・・っ!』



伸ばした手は、虚しく空をきって・・・



「ラ・・・ゥっ!」

彼は目を覚ました

ここはホーブルグ要塞の中

彼に与えられた部屋

「はっ・・・はぁ・・・!」

視界がぼやけている

目元に指を這わせれば、涙を流している事が解った

ふと、殺気を・・・

否、鬼気を感じて横を見る

そこには、冷たい目の男が・・・アヤナミが立っていた

彼はテイトの額に手を当てる

「斬魂のことは、忘れろ」

彼は今まで、テイトの記憶を見ていた

封印は解けないか、何か解ることはないか

そして見てしまった。今、テイトが見ていた夢を

それは、アヤナミにも彼の計画にも邪魔な存在の夢

必要ない感情

だから、今の夢を、感情を、そして今までの記憶を

全て丁寧に封じて

彼は立ち去った



  ◇  ◆  ◇



胸にぽっかりと穴が空いたような、そんな感じがする

埋めようとしてひたすらに求めるのは

愛情と温もり

手を伸ばせば届く距離

そしてその先にいる愛しい人



それを何度も何度も奪われる

それでも心がひたすらに求めてしまうから

消されたわけじゃない、邪魔をされているだけだから

だから心がまた、思い出して

声にならない声で、泣き叫ぶ

「寂しい」「淋しい」「サミシイ」・・・と



奪われては取り返し、奪われては取り返し・・・

その繰り返し

それでも心は光を探すから



―ねぇ、貴方は今ドコにいるの?―

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