貴方の優しさにごめんなさい

□森を抜ければ
1ページ/3ページ







―覚えているか?

君は人間に殺されかけてたから覚えてないかも

君はね、最初僕に牙を剥いたんだ

あのときは驚いたよ―

            ―森の主の記憶



  ○  ●  ○



森に関わる言い伝えがある

それは、伝説として近くにある村々に伝わっていた

“あの森に近づくな

近づけば二度と帰ってこれぬ“

勿論、それは嘘だ

否、嘘とは言い切れぬ嘘だ

本当は帰ってこれる

が、命を落としてしまう者もいる

だってこの森は、妖の住む森だから



その森に、人間が迷い込んだ

低級妖怪達は怯え、出てくることはない

この森には先日、陰陽師が入ってきていた

何人もの妖が式に変換され、連れ去られてしまった

―今回もそうかもしれない

そう思って、妖は出てこない

上級妖怪を除いて

夏目は周りを見回した

よく見れば、見知った顔の上級妖怪も混じっている

その場の妖気が、どんどん濃くなり

気がつけば、森はしんと静まりかえっていた

人間はこれを恐れて走って逃げるのだ

ただ、帰り道が解らない者や、恐れない者は

妖の餌食となり、帰らぬ者となるが

妖鳥が飛び立つ

人間はそれにびくりと体を震わせる

―もう少し

妖達は一斉に木々を揺らした

勿論斑はそれを見ているだけで、参加はしない

ふいに夏目が斑に制止の声をかけた

「先生、やめてあげて」

『・・・何故』

「あの人、困ってる。道に迷っただけだと思う」

恐怖により、人間は身動きすらとれなくなっていた

この森は、かなり広い

だが、道さえ間違えなければ安易に出られる森でもある

斑はじっと人間を見て、溜め息を吐く

今の人間の様子だと、逃げることも出来ないと悟ったのだろう

『ォオーーーーーン・・・』

斑が空に向かい吠える

すると、上級妖怪達はあっさりと帰ってしまった

人間は息を吐くと、その場に座り込んだ

「俺、あの人を森の外へ案内してくる」

『駄目だ。あまり人間と関わるな』

「先生」

駄目だ―そう、もう一度言おうとしたとき

「良いじゃないか。あの人間、かなりのヘタレだよ?」

女の声が聞こえた

視線だけそちらに向けると、隣の木に女が座っていた

いや、彼女も妖だ

『ヒノエか・・・』

「こっちも、あんま人間を森に置いときたくないんだよ」

紺の長い髪を簪で纏めている妖に鋭い視線を向ける

『ならお前が行け』

「斑。夏目に人間というものを教えないのか?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ