妖の砂糖

□二人で微睡む時間
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「ちょ!先生っ!」

なんとか抜け出そうとする夏目に

良い笑顔で斑は冷たく言い放った

「暴れるなら襲うぞ」

ちょうど布団も敷いてあるし

ばっ!と斑の顔を見ると

目がマジだった

「解った・・・から、やめてくれ」

「・・・ちっ」

「襲う気満々だったろ」

不機嫌そうな顔をしていたかと思うと

ふわりと頭を撫でられる

「、せんせ?」

「何を思い出していた」

ふい、と目を逸らしてしまう

斑は深く追求せず、ただ黙って頭を撫でていた

そうしてもらっていると、安心できて

睡魔が襲ってくる

食われるわけではない

それは解っている事なので、斑に体を預ける

そうすると、胸元に頭を寄せているような感じになるのだが

これが一番楽だから仕方ない

「辛い事を思い出した時にな、」

「・・・ぅん?」

「こうして撫でてもらうのが、一番良い」

まるで自分もそうであるかのような物言いに

そっか、と答える

いや、言葉になってなかったかもしれない

その頃には、すっかり睡魔に呑まれてしまっていた

夏目が寝たのを確認する

「まったく・・・」

柄にもない事を言ってしまった

少し頬を赤く染めながら、夏目を布団に横に寝かせる

その、少しだけ幼さの残る寝顔を見ながら思う

妖は、いつも一人だと

長い時を、ずぅっと一人で過ごす者だと

時には友と呼ぶ妖と酒を飲むが

それでも、永久に一緒にいるわけではない

妖は、自由な存在だ

縛られることがあってはならない

それに比べて、人間というのは短い命である

短い時を、たくさんの人間と過ごす

だが、夏目は一人だった

だから、別に良いだろうと思った

孤独な人間と短い時を過ごすのも

縛られてしまうのだとしても

別に良いだろう

そう、思った

「ふぁ・・・あ、ぁぁああ・・・」

大きな欠伸をして、考える

天気も良いし、散歩がてら飲みに行こうか

「・・・いや、やめた」

たまには、昼間からゆっくりしても良いだろう

久々の休日なのだから

夏目に布団を掛けてやってから

本来の獣の姿に戻り、斑も眠りについたのだった
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