小説。

□犬を飼いたい。
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「犬が欲しいらしいんだ」

相沢が呟くように言った。
伊出は口に付けていた珈琲をテーブルに置いて相沢に目をやる。

「…由美ちゃんが?」
「あぁ。最近それでうるさくてな」
「買ってやればいいじゃないか」
「由美に世話が出来るか心配なんだよ」
「大丈夫だろう、しっかりした子だから」
「俺に似てな」
「…恵利子さんに似てな」

キョトンとした顔をする相沢を見て、伊出がクスクスと笑った。

「昔は冗談なんて言わなかったのにな」
「ん?」
「いや…何でも無い」

相沢もつられる様に微笑む。

「犬か…一匹くらい居ても良いかもな」
「伊出も欲しいのか?」
「あぁ、どうしてもってわけじゃないが」
「でも居るじゃないか」
「??」
「お前の家に大きいの」

伊出は視線を上にやって考えをめぐらせる。
大きい犬?
次の瞬間、浮かんだ答えにふっと吹き出した。

「松田、か」
「そう、新しいのなんて飼ったら妬きもちやくんじゃ無いか?」
「ふふふ、確かにそうだな」
「…同棲、始めてどうだ?」
「楽しいよ。…ちょっとしつけがなってなくて大変だけどな」

そう言って伊出は残りの珈琲を喉に流し込む。

「惚気にしか聞こえないな」

相沢がそう笑うと、伊出も口元を緩ませて立ち上がった。

「惚気だからな。…犬、飼ったら教えてくれよ」

じゃぁ、と歩いて行く伊出の背中を見送る。

「うちは小さい犬を飼おうか」

一人呟いて微笑んだ。


END

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