小説。

□どうしようもなく、手に入れたい。
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俺は伊出が好きだった。
伊出も俺を好きだった。
自惚れなんかじゃ無い。
確かに本人の口から聞いた事だ。
『好きだ。…相沢、お前が…俺は』
震える声で。
切ない表情で。
しばらく沈黙が流れた。
伊出の両目が濡れていく。
あぁ、零れる…と思った時、伊出がゆっくりと俯いた。
そして小さな声で。
『すまない…困らせたな。…忘れてくれ』
と。
そしてこちらを見ずに踵を返して歩き出そうとした。
反射的に。
その腕を掴もうとした。
…しかし僅か数センチ、届かずに。
『俺も好きだ…』
今更呟いてみても届かない。
いいや、届いてはいけなかった。
…その時俺はもう、婚約していたから。
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