小説。

□甘い。
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彼が甘い物好きっていうのは、付き合ってから知った。

職場では珈琲もブラックだし、お菓子とか食べてるとこ見たこと無かったし。


でも今隣で本を読んでる彼は、4つ目のトリュフチョコを口に運んだところだ。

ゆっくりと動くその口を見つめていると、怪訝そうに彼がこちらを向いた。

「何だ」
「いや・・・甘い物、好きだなぁと思って」
「・・・だから何だよ」
「僕と、どっちが好き?」
「・・・」

あからさまに呆れた顔。

はいはい、分かってますよ。

でも、僕って言って欲しいから、引き下がらない。

「ねぇ、伊出さん?」
「くだらない」
「良いじゃないですか、言って下さいよ」
「・・・糖分」
「え〜」

わざとらしく肩を落とすと、彼は小さく笑って眉を動かした。

「嘘・・・・・・松田」

あーぁ、本当にもう、貴方って。

「可愛い」
「ぇ、ぅ・・・ん」

突然の口付けに、彼が喉を鳴らした。

まだ舌の上に残っていたチョコレートを半分さらって唇を離す。

「うわぁ、すっごく甘い」

呟くと、遅れて彼の顔が赤く染まった。

「ぁ・・・ば、馬鹿野郎」
「ふふふ」

僕はそのすきにもう一つチョコレートを手にとって、彼の口に優しく押し込む。

「僕が半分貰っちゃったので、もう一つどうぞ」
「・・・」
「・・・それとも、これも、一緒に食べますか?」

再度顔を近づけて囁くように尋ねる。

僕は流石に一発殴られるかもなぁと覚悟してた、のに。

彼はゆっくりと首を縦に振って。

・・・瞳を閉じた。







「貴方が甘すぎて、虫歯になっちゃいそう」
「松田なんか虫歯になっちゃえば良いんだ」
「・・・まさか、それが目的ですか?」
「さぁ?」




END

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