頂き物
□譲れない願い
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譲れないモノがある。
「返せぇっー!!」
放課後。ココには居ないはずの少年が、笑いながら、新米教師に追われていた。
「先生がこんな素敵なモノを俺に見せるからいけないんですよーっ」
学ランに赤いヘルメットが特徴の中学生は、女子とも見劣りしないほど端正な顔で綺麗に笑い、手に写真を持って逃げる。
最終的には、グラウンドからスケボーに乗り逃げきるという華麗さ。。。
「くそーっ…」
切なそうに涙を浮かべブツブツと、新米教師ハジメは、少年ハヤトが去った後を見る。
そんなハジメの姿にDTOは、ハジメの肩を軽く叩く。
「せぇんぱぁぃ…」
情けない声。
目には涙を溜めている。
「ぁー…まぁ気にするなっ!!アイツに狙われたら取り返すの何て無理だしな。」
DTOはそう言って、ハジメの肩をまた何度か軽く叩く。
が、その励ましも虚しく、ハジメは泣き始める。
「サトウさんの…学生時代の写真。。。」
その台詞を聞いてDTOはご愁傷様としか言いようがなかった。
「アイツ…ハヤトが見るだけで良いって言ったから、、、持ってきたのに…」
ぐすんと大の大人が少し絶えながら泣く。
ソレを見て傍らに居るDTOも居たたまれない気分になる。
そんな光景に、リュータが少し離れた位置から言う。
「ハヤトなら、隣町の駅の近くの公園にいると…「本当か!?よぉ〜しっ待ってろよハヤトっ!」
そう言ってハジメは、職員室に一旦戻り手近な荷物をまとめること…約、三秒で校庭をかけていった。
「「早い…」」
リュータとDTOはその後を呆れた様子で見送った。
─…
サトウさん待ち伏せ中の帰り道。
ハジメから奪った写真を見て、ハヤトは小さく笑った。
変わらない幼い風貌に学ラン。。。自分の知らない世界を相手から見るとき、何気にときめいたりするモノだ。
「ハヤト〜っ見つけたぞ!!」
一人の時間に浸るハヤトに、疲れきった顔で言うハジメ。
少し睨みをきかせるハジメにハヤトは、奪った写真を制服の内ポケットに入れて、優等生スマイルを浮かべる。
「あっ先生そんな顔で生徒睨みつけたりしたら、クビになりますよ?」
満面の笑顔にこの台詞。。。
(悪の大王め。)
と、握り拳を作るハジメ…ふるふると小刻みに震えるが…「ココは我慢だ自分」などと唱え気持ちを押さえ、笑みを浮かべる。
「人のモノを取っちゃいけないなんて、幼稚園児でも知ってんだよクソガキ。写真返せ。」
笑顔のまま二人は…
「大人げない…写真一枚でガタガタうるせぇんだよクソ教師。」
なんだか尋常じゃない言葉遣い。
笑顔の攻防。
「あれ?ハヤト君にハジメ君?」
そこに何も知らない待ち人。。。
「「サトウさん」」
二人の声が合わさり同じ名を呼ぶ。
それに対し呼ばれた当人は、花のように微笑んで言う。
「今日はハジメ君も一緒なんだね?」
首を傾げ聞くサトウさんにのほほんとしつつ、ハジメはその言葉の意を汲み取る。
「サトウさん…今日はって?」
そう彼は今日はって言った。
もしかしてもしかすると…ハジメの思考に何かが広がる。
「いつもはハヤト君がココで僕を待っていて、一緒に帰るんだ。ハヤト君が気を利かせてくれて…」
サトウさんがそこまで言うと、ハジメはハヤトに小声で言う。
「いつもってどういうことだよ。」
「言葉の通りですよvV」
満面の笑みでそう切り換えすハヤト。
ショックで肩を落とすハジメ。
それを見ていたサトウさんは、ハジメの様子に「大丈夫?」と、心配そうに聞く。
が
「ぁー…はい。」
ハヤトの先手にダメージは大きいようだ。
それを見てサトウさんは一生懸命に考え微笑んで聞く。
「ぅーん…せっかくだから夕飯食べてく?ハジメ君元気なさそうだし。」
「「ぇ?」」
「迷惑じゃなければ…」などと言いながらサトウさんは、ハジメを見て言う。
それに感激なハジメは目に涙を浮かべ頷く。
「じゃぁ…俺もお邪魔して良いですか?」
ハヤトが言うと共にハジメは、ハヤトを見る。
サトウさんは頷いて、夕飯を考え始める。
そしていがみ合う二人に気づかないまま、「多い人数で食べる食事って美味しいよね」と、笑った。
ハジメとハヤトはその笑顔を見て、二人で苦い笑いを浮かべた。
願いを…言うなら。。。
貴方に関わる願い。
どうか…どうか…
彼の一番の想い人になるのは、自分でありたい。
二人はそう思いつつサトウさんを真ん中に雑談しながら歩いた。
帰り道。。。三人の影がのび、空はゆっくりと夜を連れてくるように、日を暮れさせた。
終わり