長編小説

□sacred song【後編】
1ページ/11ページ

そして、クリスマス前夜


つまり今夜はクリスマスイブ


Deuilコンサートの日



コンサートは夜中からなので仕事が終わってそのまま会場に向かえばなんとか間に合うだろう。

クリスマス当日は休みとはいえ、イブまで仕事とは。

社会人になるとこんなものだと思いながらも、仕事がなければちゃんとした格好で行くことも出来るのに、と内心そっと溜め息をついた。



定時きっかり、鞄の中に荷物をつめる。


―いそがなきゃ


バスを乗り継ぎ、会場近くになると走りだす。

ざわめく人の間をすり抜けチケットに記されてあった席になんとか座った。


周りは女の子ばかり

一人スーツ姿の自分が場違いな気がして恥ずかしくなった。


席で縮こまっていると不意に携帯が震える。

「…はい?」
『サトウ?』
「ぁ…ムトウ君」


電話の向こうから従兄弟の声。
ん、と優しい口調に少し救われる。


「どうしたの?」
『今から時間あるか?クリスマスだし、うちで夕食でもどうだ?』
「ん〜…ごめんね…僕今…」

その時、会場のライトが一斉に落ち、キャーと黄色い歓声があがった。

「ごっ、ゴメンね!また今度!」
『ぁ、あぁ…わかった』
「じゃぁ、ありがとう」


そう言ってプツッと携帯を切り、ポケットにしまう。

ドキドキと興奮で心臓が波打ち、目はステージに釘づけだった。


流れだすイントロに一瞬静まりかえる会場


嵐の前の静けさというやつだろうか


皆があの人達の登場を固唾を飲んで待っている。


次の瞬間


キャー!!


一斉に上がる歓声


ステージを照らすライト


そこにいるのは勿論


Deuil


あがった歓声も次には静まり、聞こえるのはユーリの歌声、アッシュのドラム、スマイルのベース


皆が楽しそうに笑顔になる。


ライトに照らされた姿は


なんだか━…
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ