短編小説

□散り往く華
1ページ/2ページ

ザァッという葉擦れの音に、ジャックは足を止めた。

なんでもない音なのに、何故か強く興味を惹かれる。

周りを見渡してすぐ、高い塀の向こうから覗く大きな木を見つけた。

季節はもうじき冬になっていくというのに、何故か花までついている。

ジャックは躊躇いもなく、軽々とその塀を乗り越え、その木に近づいた。


桃色の花をつけた大きな木から、花びらがヒラヒラ零れている。


夜のせいだろうか
綺麗だけど、何処か恐怖を感じた。


まるでこの木は何かを隠しているようだ


何か、恐ろしいものを 此処に



血に濡れた手の指先で幹に触れる。

木は冷たかった


「余り、その木に触れないでくださいね」


突如、気配もなかったのに声をかけられ、ジャックはハッとして振り返った。

そこにいたのは坊主一人。
穏やかな微笑を浮かべている。

ジャックは木から手を離し、警戒した。
坊主は気にも留めず庭に下り、数歩木に近寄り、それを見上る。


「花の色が濃くなるといけませんから」


ふわりと風に乗って舞い落ちる花びらを1枚捕らえ、坊主が目を細めた。

ジャックは静かに頷き、木の根元の土を浚った。
手に付いた血が、吸われていくように地面に落ちていく。


目の前に舞い落ちた花びらの色が、さっきよりも濃くなった気がした。








終わり
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ