短編小説
□越えられない境界線
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あの人は温かい、けど
あの人の住む世界は
きっと僕にはわからないくらい
暗くて冷たいんだ
深夜、0時を過ぎた頃
あの人の約束してくれた場所で僕は彼を待っている。
本当は約束の時間なんてもう30分は過ぎた。
でも時間にルーズな彼はきっといつもの悪怯れない笑みでやってくるから。
そして『悪いな』なんて言いながら反省している様子もなく、煙草の煙を曇らせるんだ。
そんな事を考えていると、不意に鼻につくリアルな煙草の匂い
「KKさん…?」
「悪い、遅れた」
振り返るとやっぱりいつものように煙草を口にして、癪に触るような笑み。
「遅いですよ」
そう言ってわざとムッとした表情をつくると彼の匂いに包まれた。
いつも吸ってる煙草の匂い…
煙草の匂いは嫌いなはずなのに、この匂いだけは何故だか落ち着く
「悪いな」
2度目の謝罪
「…いいですよ」
だって本当は怒ってなんかいないんだから
ただ、約束の場所に来てくれただけで嬉しい
それよりも、何処か疲れを含んだその声のほうが気になった。
それに…煙草の匂いに紛れてほとんどわからないけど、それでも鼻につくこの香り
生々しい、血のような
本当にそうなのかわからないけど、鉄のようなこの匂いは多分、そう。
この人には…僕なんかが入ってはいけない世界があるんだ。
それはきっと危険な…