短編小説
□森の歌
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人が近付かないような深い森の奥
朝露にしっとりとなった髪を腰まて、垂らし、少女は顔を上げる。
千切れた雲の隙間から差し込む木漏れ日
木々の間を駆け抜けていく小鳥達の声
川縁に腰掛け、足元の水を数回パシャパシャと弾いた。
朝露に濡れていた髪は通り抜ける風で既に乾ききっており、さらさらと流れる。
パシャンと水の中に足をおろした。
そのとき、風に運ばれてふわんふわん、とゆっくり落ちてくるものに気付いたシルヴィアはふっと目を細めて微笑み、ゆっくりと立ち上がった。
おいで、というように両手を差し出せば風に吹かれながら懸命にこちらに向かってこようとする。
幾度か風に流されかけながら、それはようやくシルヴィアの腕の中に着地した。
(こんにちは)
(こんにちは、おねーちゃん)
「こんにちは、二人で来たの?」
尋ねると二人はふるふると首を横に振った。
(アメトリさん)
(つれてきてくれたの)
ふわふわ漂う二人はうまく目的地に着く事が出来ない。
見兼ねたアメトリが手助けをしてくれてようやく此処まで辿り着いたのだ。
「そう、よかったね」
優しく頭を撫でると嬉しそうにふわんふわんと宙に浮く。
(おねーちゃん、あそぼ?)
(いっしょ、あそぼ?)
「うん、何したい?」
(おうた)
(うたって?)
「え…?」
キラキラと期待に満ちた目が向けられた。
どうして断ることが出来るだろうか。
本当は観客の前で歌うのは恥ずかしいのだが、小さな友達のためにシルビアは花畑の中心に立った。
目を閉じてスゥと息を吸い込む。